「やめるんだ、ボーラス」アジャニはドラゴンの神に叫びます。「行ってくれ、もう十分だろう」
『どうして止めねばならぬ? それは恥部、価値の無いゴミであろう』
「やめろ、俺の居る世界だ」
アジャニは大渦の残滓に力強く飛び込みます。それは彼を包み込み、空中にとどめ、マナの奔流で満たし、感覚に負荷をかけます。力のカケラにすら、アジャニは圧倒されます。何千人もの魔道士の努力を一瞬で、その魔法がすべて繋がったものを自らの力にするなど、信じられないことでした。
アジャニは目を閉じ、彼の内なる目が開きます。



そこはあるがままの世界。なにひとつ特徴のない、白の虚無。
"アジャニ"ジャザルの声に、アジャニは振り返ります。
銀毛のジャザルが微笑んでそこに立っていました。二人は固く握手します。
「ジャザル、ずっと探していたんだ」
"知っている"
「俺は......俺は、あなたの仇を討てなかった。すまない。本当の仇は......そいつは、手に負えなかった。俺よりはるかに強かった」
"わかっている"
「あと、ザリキは――彼女は、間違った道に導かれてしまった。それは彼女が悪いんじゃない。彼女は、あなたを愛していたんだから」
"ああ。お前の言うとおりだ。アジャニ"
「失望させてしまって面目が無い」
"それがお前のしてきたことか?"
「ああ。俺には大きすぎた。殺しの犯人も、5つの世界も、多元宇宙も――すべてが俺の想像より大きかった。俺には扱いきれなかったんだ」
"それは、お前が偉業を成すために立ち上がる前に学ばなければならない最初の物事だ"
「そうはならないだろう。もう手遅れだ。奴の勝ちだ。奴を止めるのに間に合わなかった。計画は成就し、奴は求めていた力を手に入れてしまった。俺にはあなたを心安らかにさせる方法など思いつかない。いや、それどころか、世界が、アラーラのすべてが利用し尽くされ、捨てられようとしているんだ」
"お前はまだここにいるではないか。お前はあきらめたわけではないのだろう?成すべき事があると自覚しているなら、チャンスが無いなんてことはない。よく聞くのだ"
「聞いているよ」
" そうではない。真に耳を傾けるのだ。お前はアラーラの核に立っている。脈打つ心臓部に。これこそ俺が捜し求めたもの。マリーシとその主の嘘に隠された中にある、ひとつの可能性なのだ。それが、マナの核。アラーラの生きとし生けるものすべてから繋がる生命の糸の集約点。ボーラスがその力としたいと目論んだもの。お前が学ぶ機会そのもの。さあ、耳を澄ませ"
「こだまが......聞こえる」
"そうだ。なんと言っている、アジャニ? それは何を教えてくれる"
「もうすこしで聞き取れる......」
アジャニはジャザルの手がすり抜けていくのを感じました。
「ジャザル? 待ってくれ、行かないでくれ!」
"それが教えてくれるものは何だ? アジャニよ"アジャニは手を伸ばしますが、その面影も、その声も、か細くなり白の虚無に消えていきました。
「ジャザル!」



ボーラスは哄笑します。
『そううまくはいかぬ、小さきウォーカー。その残りカスを力にしたとて我に敵うわけがなかろう。この世界に我を止められる者など居らぬ』
「そうかもしれない」アジャニは言います。「だが、ひとつだけできることがある」
アラーラの全ての魔道士の声がアジャニの口から一度に発せられます。無限に近い知識は、ひとつの不協和音を彼に見出させます。アジャニはボーラスの奥深くに灯を、他の命あるものたちと同じように、永遠の本質を見出します。おそらく、彼は他のものと同じルールには縛られていないのでしょう。そこにアジャニが見出した力は目もくらむばかりの、精神が引き裂かれそうなものでした。しかし、そのドラゴンには魂と呼べる部類の、欠かすことの出来ない意識の核がありました。その魂はアジャニが打ち倒すことはできませんが、それを反転させ、それを育て、花開かせ、実体化する素材とします。
"アジャニ、お前はいつも皆に最善を示してくれる"ジャザルの言葉が思い出されました。"お前の贈り物だな"
アジャニはボーラスの本質を呼び出します。

エーテルに包まれた星の奔流のように、エネルギーがボーラスの胸から噴き出しました。大渦の残したくぼ地にぶつかり、そのカーブした縁に跳ね返ります。広がり、ゆがめられたその奔流はひとつの形を取りはじめます。はじめのうちは、紫外線で乱された空気のゆがみが作り出したドラゴンのように見えました。その密度が高くなるにつれ、遠方の風景に焦点が合うように、詳細がだんだんくっきりと見え始めます。それはボーラス自身の光り輝くアストラル体となります。2体のドラゴンは、奇妙にもそっくりに動くお互いを見つめます。その物まねぶりから怒り、お互いに吼え、空気を震わせます。それらはぶつかり合い、爪で取っ組み合いを始めます。彼らはお互いがアラーラの中でも最大の脅威であることを知っていました。お互いの力と裏切る性格を知っていました。一歩引けば自身の破滅であることも知っていました。お互いの精神と魂を屈服させようと魔法のエネルギーを放出し、お互いを手駒としようとします。そしてお互いに精神攻撃への防御を目的とした魔法で対策を講じます。そのマナの嵐の力でうねりが生じます。かたや鱗の肉体にそって、かたや星のように輝くエーテルの姿にそって。

アジャニは坂を這いずり、大渦の谷の外へと向かいます。彼は2体のドラゴンの魔力がお互いを雷鳴のごとく打ち付けているのを感じ、その爪がお互いの鱗をひっかけようとしている音を聞きました。彼は無垢の可能性そのものが噴き出るのを感じ、嵐の中心で戦う2匹が暴力に酔っていくのを感じていました。もし一方が他方を破壊することを決めたら、とアジャニは考えます。その両方が確実にそうするだろう。その怒りでアラーラのすべてが焼き尽くされてしまうかもしれない。選択権は、最終的にはボーラスの魂の本質次第でした。
アジャニは坂を急いで登り、クレーターの縁で背後のドラゴンを振り返りました。ボーラスたちは完全に互角で、一撃は反撃を受け、優勢を得ようとする試みは完璧な精度で回避されていました。それは自分自身を超えようとするひとつの巨大な知的レースで、一方が勝ろうとすると片方がそれを失敗させていました。突然、ドラゴンらは後ろに下がり、お互いの目に純粋な憎悪を確認します。そして前進し、お互いの首にガブリと食いつきました。
大渦のエネルギーの流れは、ドラゴンで出来たウロボロスを包み込み、そして雷光の閃光がアジャニの感覚を圧倒します。数秒間、光と静寂のみがありました。

俺はしくじってしまった。アジャニは思いました。アラーラは破壊された。

そして、ゆっくりと、風の音がアジャニの耳に戻ってきました。毛皮をなでる感覚は妙な感じで、そんな単純な何かを感じることが好ましいという感覚すら忘れていたかのようでした。次第に激しい光は薄れ、世界が再び彼の目の前に現れました。クレーターは空っぽになっていました。ドラゴンは居らず、マナの嵐もありません。谷には風だけが満ちていました。アジャニは座り込みます。風が逆立てる美しい白の毛皮には、新たに一房の金色が混ざっていました。動くものは他にはありませんでした。

アジャニは谷の縁に座り、アラーラの残ったものを滅ぼしにボーラスが戻ってくることを長いこと待っていました。彼は二度と戻って来ませんでした。



「エルズペス卿?お呼びでしょうか?」
バントはエルズペスにとって楽園でした。異邦人としてこの地に来て、プレインズウォーカーであることは語らぬ過去でしたが、彼女の故郷であるかのように受け入れてくれました。バントは彼女が初めて本当の故郷と感じたところであり、離れるまいと誓った場所でした。
しかし今は、彼女は思いました。ここは廃墟と化してしまった。部屋の窓からは薪の火が見えていました。死者を空へと送り出す煙が立ち上っていました。彼女の記憶に焼きついた者たちを思い浮かべます。友を死地に送り出し、何千ものアーシャの軍をアンデッドの軍と戦わせてしまいました。世界は取り返しの付かない変化をし、彼女の家、彼女の家族、彼女のバントは無くなってしまいました。
「お入りください。騎士マーディス」マーディスは彼女に割り当てられた部屋の入り口へと来ました。彼は本当にシャイに見えました。二人はマルフェゴールとの戦いについては話しませんでした。彼がやっとのことで生き残った戦いでした。
「来ていただけて感謝します」
「もちろんです、騎士長。大丈夫ですか?」それはおかしな質問でした。
「私は......大丈夫です。ありがとう」彼女はいつものように不器用に嘘をつきました。
「貴方のほうこそ、ご家族は?」
「まあまあです。お気遣いありがとうございます」
彼の嘘は上手だな、彼女は思いました。彼女はマーディスの家族は戦により大勢亡くなっていることを知っていました。皆がそうであるように。
誰もが、本当の家族を持っている――私とは違って。私は空から落ちてきた孤児、また異邦人へと逆戻り。そう、バントへ始めて来たときと同じ。
「貴方に来て頂くようにお願いしたのは、話したい......渡したいものが、あるからです」彼女はどもりながら言います。
「それは光栄です」貴方は誠実で礼儀正しい。そんな人物はそうそう居ません。私を怒鳴りつけ、殴られたほうがどれほど話しやすかったでしょうか。

「渡したいものとは?」彼は尋ねます。「あ、私は、あの――」何をあげようとしたのだろう?思いつくものは無く、バントの形見になるものなど一つも持っていなかったことに気づきます。飾りものも、指輪も、私がここにいたことを称えるしるしも。
私は本当にひとりぼっちだ。彼女は思いました。孤児だ。我が家、故郷だと言ったところで、自身を守ることすらおぼつかない。
「ごめんなさい」「実は......あなたに差し上げられるようなものは残っていませんでした」マーディスは唇をくっと引き結び、早口で言いました。「あなたはヴァレロンを離れるのですね」
エルズペスは言葉に詰まります。「私は......はい。離れようと、思っています......ヴァレロンを......」
「ですがなぜ?」
「出発は重要なことなのです」ここに留まることは出来ない。とどまってバントの廃墟を見続けることに耐えられそうもなかった。
「いったいどこへ?」
「この世界全てからです。たしか他の断片へ行ったことはありませんでしたね?」
「たしかにまだです」いや、彼女はアラーラから出たことはなかったはずだ。彼女の友人というのは理解しがたいが、彼女の様子は真剣だった。
「ですが、離れることなどできないでしょう」とうとう、本音の声色が出てしまった。
「あなたは、印章階級でいらっしゃる。その地位を捨てると。 騎士としての誓いを破ることになるのですよ」
「よくわかっています」
「もう二度と戻らないと聞こえました」
「そうです」
マーディスは刺されたかのような表情を見せます。 そう、その顔です。貴方がそんな顔をするだろうと思っていました。でも、わかってもらえるだろうと願っていました。これが、貴方に送る本当の贈り物――貴方に、嫌われること。乱暴な状況で、二人の友情を分かつこと。二度と会えなくなること。貴方を裏切るようなことを言うために呼びつけ、ここを離れる都合のいい口実にし、貴方は貴方の人生を送り、私のことなど忘れ去ってしまうこと。
「私は忘れません」
「ありがとう」
でも、いいえ、貴方は忘れてしまうでしょう。マーディス。私が去れば、貴方の記憶から私は消えていくでしょう。貴方は自分の人生を再び愛した人で満たしてください。貴方に残していけるものは一つも無いのです。
私がバントにいた証拠は何も無くなります。それが私なのです。それが私の生き方なのです。常に故郷を捜し続け、決して足跡を残さない。でも私は貴方を忘れません。マーディス。バントをずっと忘れません。ごめんなさい。許してください。

よく事情が飲み込めないまま、きまり悪そうに握手を交わし、彼はまだ何か言いたそうにしていますが、何かを言う代わりに振り向いて歩き去っていきます。ドアは丁寧に閉じられます。
エルズペスはきびすを返し、窓に向かいます。外では一人のアコライトが葬送の薪のそばの荷車から小さな子供をその上に積み上げていました。
窓の鎧戸を閉じ、彼女は暗くなるのを待ってプレインズウォークしていきました。



ラフィークはムビンの見舞いに来ます。
「馬鹿者め」「あんたより山ほどの治療師のほうがよかったよ」
「騎士将軍ではだめかい?」
「今回の任務は我らのものだぞ。あんたとともに行き、そして怪我を、怪我を――」
「もう気に病むな、ムビン」「すべて終わったことだ。それに、エーテリウムを持ってきたんだ。戦争がもたらしたたったひとつのいいことさ。魔道士も連れてきた。お前さんはまた歩けるようになるんだ」
ムビンは考えます。金属の足になるなんておぞましいことだが、それを断ればラフィーク卿に二度と歩くところを見せることは叶わない。一生寝たきり。最悪だ。
「それで」「いつ始めるんだい?」
ラフィークの笑い声は部屋中に響きました。



*ジャンド*
サルカンは背中に手をやり、刺さったままの矢を引き抜きました。歩きながら、彼は背中からやじりをナイフで掘り出そうとしていました。エルフどもめ、いい矢を作りやがる。深く刺さり、がっちりと食い込んでいやがる。打ち込まれたやじりはナヤの獣の骨から削りだしたものだろうかな。骨のカケラがボーラスによって堕落した血に浸されてジュウジュウと音を立てているさまを思い浮かべます。
戦争はサルカンにとって悪いほうに転びました。古竜の行方を捜そうとは思いませんでした。どこへ消えていったのやら。新米のプレインズウォーカーにマナの接続が切られたこともどうでもよくなりました。彼からマナが離れていき、ドラゴンの制御もきかなくなり、ジャンドに戻る手段も無くなりました。
背中をえぐり、最後のやじりを取り出しました。立ち止まり、自分の手を見ました。骨のカケラではなく、削り取られた石が血に染まった手の中にありました。ボーラスへ忠誠を誓ったからか。これが俺の運命か。
瞬間、自分の目にやじりを突き刺したくなる衝動に駆られ、その考えは彼をくすくすと笑わせます。その笑いは次第に大笑いへと変わり、声がかすれるまで笑い続けました。

心を保て。彼は自分に言い聞かせます。ボーラスの黒い影を空に見たような気がしましたが、理由はわかりませんでした。うだるような熱さのカルデラの縁まで歩き寄ります。その火山のカルデラは、猫男に火と怒りを教えた場所でした。彼の眼下で溶岩が泡立ち、耐え難い熱さでブーツを通して足がチリチリと痛みました。低くなるってのはどういう気分なんだろうな。じわじわと赤熱するヘドロの中へ沈んでいくのは。

彼は大声で叫び、アラーラからプレインズウォークしていきました。



バントでは、ムビンの手術が行われます。ベッドの傍らには銀色の金属の液体が熱も無く泡立っています。
「わしは眠ってしまうのかい?」
「起きた頃にはきっと良くなっていますよ、そのときにご質問にお答えしましょう」癒し手は言います。金属を足の傷に流し込んでいるの見て、ムビンは絶句します。
「ロウクスのように難しいことは言えないが、なにかおかしな感じはしないかい?」見守るラフィークが話しかけます。
「もういいでしょう」「ほぼ終わりました。患者さんの邪魔をしてはいけませんよ、騎士長どの」
「お前さんも見てみろ」「金属がひとりでに形をとりだしている。こりゃあ驚きだ。枝分かれして、伸びて、作り出している......何かを。なんと言っていいかわからんが、きれいだ」
ムビンは体をきりきりと刺すような痛みを覚悟します。動脈を流れる痛みにうめきますが、それも収まります。
そのとき、ラフィークは紫色の斑点がムビンの体に広がっていくのを見ます。足から始まり、急速に全身に広がります。
「何か変だ」「エーテリウムが毒になっているようだ」「見えるだろう?早く切り離せ!」
軟膏使いは慌てて施療しますが、ムビンの体はビクンと跳ね、背中は弓なりに1回、2回と反り返りました。汗が滝のようにムビンの顔を流れ落ち、胸は激しく上下し、ゼイゼイと息が漏れます。
「なんとかしろ」ラフィークは言います「あんたは彼を助けるんだ。ああアーシャ、俺はまた過ちを犯してしまいました。どうすればいいのですか」
「やれることはすべてやっています」癒し手は言います。「痛みを和らげる軟膏、少しばかりかじった魔法、感染症の薬、でも効果がないのです。この汚染に抗する術が無いのかも」ムビンのけいれんは収まりました。息も穏やかになります。「持ち直しました」
いや、まだだ。ラフィークは考えていました。「いつだって」「いつだって、俺は自分が正しいと思うことを考えてきた。古き友よ。俺はすべてを間違えてしまった」
ムビンの目が薄く開きます。「どうしたってんだ、古き友よ」ムビンはガラガラ声で言います。ラフィークはすばやくまばたきをします。瘤がムビンの喉にできていました。
「お前さんは良くなる。良くなるんだ」
「もちろんだとも」ムビンは言います。「すぐにダンスだってできるさ」
「無理はするな、今は休んでくれ」
「大丈夫さ」老ロウクスは笑います。紫色の斑点は顎にまで達していました。
「ムビン、すまない」「俺は何もかもを間違えてしまった」
「わしについてはそうじゃないさ、古き友よ」「あんたの徳は、ときにあんたの目をくらませてしまう。あんたが太陽の下にいる間は、それは見えてこない。あんたは一度たりとも――」ムビンは歯を食いしばり、黒い血の塊を吐きます。
ラフィークはすばやく彼の口をぬぐいました。彼の額の汗をぬぐいました。ムビンの目は閉じ、頭は下がり、そのまま意識を失いました。ムビンは二度と目覚めませんでした。

ラフィークは、大月桂樹の印章を授けられる英雄としてセレモニーの準備をしていました。ムビンの葬儀に何をしたのかすら、ぼんやりとしか思い出せませんでした。自分の人生は正しいこと、名誉のためにあった。かいがいしく出立の準備をする従者のかたわら、ぼんやりとラフィークは考え込んでいました。運命の犠牲者となるのは運が尽きたときだ。思いもよらない出来事をたどり、目に見えない運命がもたらした悲劇がムビンの死なのだと。壁を登ったり降りたりする蜘蛛をしばらく眺めていた後、彼はきびすを返し、会場へと歩いていきました。



アジャニは木の桶に柔布を押し込みました。洗剤と水が混ざり、粗い石の床は一面水浸しでした。ジャザルの寝床をごしごしと洗い、血の汚れをぬぐっていきます。くぼみは黒くなっていましたが、汚れが取れるまでアジャニは掃除をしていました。

「アジャニ? 入ってもいいかしら?」
ザリキの声に、アジャニは顔を上げることなく答えます。
「さあね。ここに入る価値があるかどうか、自分で考えたらどうだ」
ザリキは洞窟の入り口で、掃除をに励むアジャニを見ていました。
「あなたの言うとおりね。私、行くわ」
「ザリキ、待った。少し話したいこともある」
彼女は立ち止まります。が、アジャニの方は剥きませんでした。
「何」
「俺は出発する。今夜だ」
「どこへ?」ザリキは振り返ります。水に溶けた血が床の亀裂に流れ込んでいました。
「戻ってくるの?」
「言えない」
「この世界が......俺に意味があるのかどうかわからない。わからないんだ」
「そんな」
「俺は君を群れ長に指名する」
「えっ?」
「長老には会ってきた。最近の出来事が明るみになれば、今までのようには暮らせない。ジイさんたちは俺に群れを率いるよう言ってきたが、俺はその地位を君に譲りたい。頼まれてくれ」
「アジャニ、私――」
「誰かがこの群れを率いなければならない。ジャザルが目指したものを継ぐ誰かが。雲のナカティルとエルフを話合わせ、纏め上げる人物が。再び我々の間に入り込んでくる者が居ないように、結束を固める人物が必要なんだ。」
「それが、私?」
「そうだ。おかしな話に聞こえるだろうが、そうだな、正直に言おう。俺は君を殺そうとも思っていた」
ザリキは息を呑みます。
「すまない。だが俺は君に自分のしたことを理解させることに決めた。群れからはじき出されることのないように頼ってきた人だし、導いてきたもの、君を傷つけたものを君は見てきている。そんな過ちを犯す最後の一人であってほしい」
「それが罪滅ぼしだと?」
「それに近い」
ザリキは洞窟の天井を見つめます。
「ありがとう」
「お膳立てはすべてしておいた。行ってくれ」
彼女は口を開きますが、すぐに閉じます。最後に彼を見つめた後、ザリキは歩き去っていきました。

アジャニは一晩かけて床を掃除します。寝床の外へ桶を運び、岩棚の上から土に汚れた水を眼下のジャングルへと捨てました。

『Alara Unbroken』完

コメント

JFK_
2009年10月15日22:16

ペスさんがどー見てもメンヘラです。残念美人とはこのことか。
どこまでも主人公補正のアジャニ君はどこへ行くんでしょうね?

ヴォルさんは・・・シモベデスヨー

一行たりとも、名前すら出てきてない人もいますが、絡ませることができなかったからばっさりカットされたんだろうなあ・・・3部作だったらどこかで出てきていたかもしれませんね

パート1,2はがっつりカット、パート3の6割を完訳してます。ラフィークのグリクシス潜入編とかサルカンのエスパー潜入編は重要ではないのでばっさりカットです。

通して読んでいるとわりとハリウッド色の強さと中二っぷりが目を引く感じです。ダグの文章は読みやすいことは読みやすいんですが、省きすぎて意味が分からなかったり細かく書きすぎて伝わりにくかったりとムラがある気がします。でもマクゴウ氏の文章よりははるかに簡単かな?

ゼンディカーは担当がいなければたぶんやりますので、来年まで翻訳パワーをためておきたいと思います。

マエストロ
2009年10月16日2:43

お疲れ様でした!
アラーラのストーリーがどうなったのか、ボーラスの野望は達成されたのかずっと気になっていたのでモヤモヤが晴れました。
いやー本当に面白かったです、ありがとうございました!

サルカンさんの没落ぶりが、シングル価格とリンクして涙を誘います:;
アジャニはムダにかっこいいw「あ、その土地起きないで下さい」とか言わないんですねww

ゼンディカーもかなり先になるとは思いますが、今からワクテカしながら待ってます!

ヴェンセール男鹿
2009年10月16日14:34

リンクさせていただきました
よろしくお願いします

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