ニッサ・レヴェインはカサカサ、ポキリという音を聞いた。下生えを抜けて自分のほうへハイバが駆けて来ているのはわかっていた。彼女は、毒のある角に用心深い目を向けたまま、手の上に止まった猛禽甲虫を慎重につかんだ。彼女が見守っていると、その虫は毛のある紫の羽を広げた。
「こちらに、速く」ハイバが言った。草むらから大声で。
ニッサは見上げ、彼が動けないのを見た。彼の目は握りこぶしほどの大きさの甲虫に向けられていた。彼は後ずさったが、遅すぎた。彼を感知したのか、その甲虫は突然彼の顔めがけ飛び上がった。ハイバはしゃがみ、そして後ろ向きに倒れた。甲虫は彼の耳の側を通り過ぎ、木々の間に消えていった。ニッサはそれを見守っていた。
「いつものように、静かに頼むわね」彼女は言い、彼女は甲虫が飛んでいった枝の隙間に目を向けた。微風が葉を揺らし、ニッサは息を吐いた。
「いつの日か」ハイバは言った。「そう言わなくなりますよ」
彼女はハイバが体をはたくのを見ていた。森の地面の只中で、汗を吸った革、ジャーウォレル樹の樹液、苔の臭いが彼から漂ってきた。
「我々タジュールはこんな下のほうをこそこそして過ごしたりしません」甲虫の飛び去った方向をちらっと見つつ、彼は言った。「下のほうでは何でもそうしているのですかね」
ニッサは彼の力量を見極めて、心の中で微笑んだ。多くのタジュールと同じく、ハイバは軽装でよく訓練されている。彼のベルトには短剣が1本下がっていて、彼のクライミングフックとロープに当たってガチャリと鳴った。彼の胴まわりと腿は腰帯がぐるぐると複雑に交差していて、肩の背負い紐はイボイノシシの皮と変わり樹の樹皮でできている。後者は千切れないほど丈夫だ。彼の両腕は長い筋肉が可能な鞍付けがされていて、彼女も知っているように瞬発力は驚異的だ。彼は瞬きの半分ほどの間に、切り立った崖の表面に取っ掛かりを見つけ、1本の指で3人のエルフを支えることができる。
彼女は、彼なら以前よりさらに多くを支えてのけるだろうと見て取った。彼は以前、彼女がぐらつく岩の峡谷でつま先の支えが外れたときに彼女の命を救ったことがある。タジュールとは違い、彼女の属するジョラーガ・エルフたちは登攀技術は高くない。だがその欠点を補って余りある隠密行動、召喚能力、勇猛果敢さを持ち合わせている。
彼女は肩をすくめて、長い杖の皮ヒモを肩の後ろの定位置に投げ掛け、ハイバの後を着いて行った。
定住樹への帰り道はくさびを打って登っていく。栓抜きのような形の変わり樹の幹と苔が広がる枝の道は、10人のエルフが肩を並べて歩けるほどに広い。彼らはすぐにぶらさがった地衣類の間に隠されたロープの橋を見つけた。それはいつもニッサにそよ風に揺れてうごめく蛇を思い出させる。 ヘビなんて。 ニッサはゴクリと唾を飲み込んだ。蛇はオンドゥのいたるところに満ちている――実際のところ、彼女が近寄ろうとしたロープの手すりの周りに1匹巻きついていた。 ヘ、ヘビなんて。 ニッサは手すりを通り過ぎるときに震えださないよう努めた。 吸血鬼のほうがヘビなんかよりよっぽど汚らわしいわよね。 ハイバは彼女の渋面に気がついた。エルフの青年は、彼らが歩くにつれにやにや笑っていた。
「まだ蛇が怖いのですか」彼は言った。質問というより断定だった。
「”まだ蛇が怖いのですか”と考えているように思えたけれど、葉の語り手の隊長殿に対して?」彼女の公的なタジュール・レインジャーの肩書きを使って言い直した。「あなたそう言いたいのよね?」
「まさしくそう言いたいのですよ、葉の語り手の隊長殿に」ハイバは言った。彼が自分をからかっていることはわかっていた。別に気にしすぎたとも思っていなかった。ハイバはか弱きエルフたちがこの場所で友と呼べる近しい存在だったからだ。
彼らが木々のまさに近くに来たところだった。彼女は火の臭いを嗅ぎ取った。だが木はとても巧妙にカモフラージュされており、彼らがその幹に辿り着くまで、森は破られることなき静寂に包まれているかのように見えていた。変わり樹の絶え間ない軋みだけがその静寂を満たしていた。
静寂は、彼女を引き取った部族の持つ別の奇妙な一面であった。彼らが沈黙を要することが彼女には理解できなかった。古き故郷であるバーラ・ゲドは騒がしい場所だったが、そこのジョラーガに戻ることもできないのも確かだった。彼女がタジュールとの約定を果たすまでは。それはジョラーガの最高指導者全員がしてきたことだった。一定期間、ほかの部族と共に異国の地で暮らすということ。しかしニッサの場合さらに長期に渡っていた。彼女は過去に久遠の闇を旅してきたのだ。見渡す限りの草原の平坦な地へ、金属と火の地へ、お互いを支配しようとする人々が住む終わり無き都市の地へ。だが、それらの次元のひとつとして彼女には合わなかった。そのどこよりも、ゼンディカーより美しく、マナに溢れた次元はなかった。だから彼女はすぐ後ろ髪を引かれる思いを持ったのだ。
「こちらに、速く」ハイバが言った。草むらから大声で。
ニッサは見上げ、彼が動けないのを見た。彼の目は握りこぶしほどの大きさの甲虫に向けられていた。彼は後ずさったが、遅すぎた。彼を感知したのか、その甲虫は突然彼の顔めがけ飛び上がった。ハイバはしゃがみ、そして後ろ向きに倒れた。甲虫は彼の耳の側を通り過ぎ、木々の間に消えていった。ニッサはそれを見守っていた。
「いつものように、静かに頼むわね」彼女は言い、彼女は甲虫が飛んでいった枝の隙間に目を向けた。微風が葉を揺らし、ニッサは息を吐いた。
「いつの日か」ハイバは言った。「そう言わなくなりますよ」
彼女はハイバが体をはたくのを見ていた。森の地面の只中で、汗を吸った革、ジャーウォレル樹の樹液、苔の臭いが彼から漂ってきた。
「我々タジュールはこんな下のほうをこそこそして過ごしたりしません」甲虫の飛び去った方向をちらっと見つつ、彼は言った。「下のほうでは何でもそうしているのですかね」
ニッサは彼の力量を見極めて、心の中で微笑んだ。多くのタジュールと同じく、ハイバは軽装でよく訓練されている。彼のベルトには短剣が1本下がっていて、彼のクライミングフックとロープに当たってガチャリと鳴った。彼の胴まわりと腿は腰帯がぐるぐると複雑に交差していて、肩の背負い紐はイボイノシシの皮と変わり樹の樹皮でできている。後者は千切れないほど丈夫だ。彼の両腕は長い筋肉が可能な鞍付けがされていて、彼女も知っているように瞬発力は驚異的だ。彼は瞬きの半分ほどの間に、切り立った崖の表面に取っ掛かりを見つけ、1本の指で3人のエルフを支えることができる。
彼女は、彼なら以前よりさらに多くを支えてのけるだろうと見て取った。彼は以前、彼女がぐらつく岩の峡谷でつま先の支えが外れたときに彼女の命を救ったことがある。タジュールとは違い、彼女の属するジョラーガ・エルフたちは登攀技術は高くない。だがその欠点を補って余りある隠密行動、召喚能力、勇猛果敢さを持ち合わせている。
彼女は肩をすくめて、長い杖の皮ヒモを肩の後ろの定位置に投げ掛け、ハイバの後を着いて行った。
定住樹への帰り道はくさびを打って登っていく。栓抜きのような形の変わり樹の幹と苔が広がる枝の道は、10人のエルフが肩を並べて歩けるほどに広い。彼らはすぐにぶらさがった地衣類の間に隠されたロープの橋を見つけた。それはいつもニッサにそよ風に揺れてうごめく蛇を思い出させる。 ヘビなんて。 ニッサはゴクリと唾を飲み込んだ。蛇はオンドゥのいたるところに満ちている――実際のところ、彼女が近寄ろうとしたロープの手すりの周りに1匹巻きついていた。 ヘ、ヘビなんて。 ニッサは手すりを通り過ぎるときに震えださないよう努めた。 吸血鬼のほうがヘビなんかよりよっぽど汚らわしいわよね。 ハイバは彼女の渋面に気がついた。エルフの青年は、彼らが歩くにつれにやにや笑っていた。
「まだ蛇が怖いのですか」彼は言った。質問というより断定だった。
「”まだ蛇が怖いのですか”と考えているように思えたけれど、葉の語り手の隊長殿に対して?」彼女の公的なタジュール・レインジャーの肩書きを使って言い直した。「あなたそう言いたいのよね?」
「まさしくそう言いたいのですよ、葉の語り手の隊長殿に」ハイバは言った。彼が自分をからかっていることはわかっていた。別に気にしすぎたとも思っていなかった。ハイバはか弱きエルフたちがこの場所で友と呼べる近しい存在だったからだ。
彼らが木々のまさに近くに来たところだった。彼女は火の臭いを嗅ぎ取った。だが木はとても巧妙にカモフラージュされており、彼らがその幹に辿り着くまで、森は破られることなき静寂に包まれているかのように見えていた。変わり樹の絶え間ない軋みだけがその静寂を満たしていた。
静寂は、彼女を引き取った部族の持つ別の奇妙な一面であった。彼らが沈黙を要することが彼女には理解できなかった。古き故郷であるバーラ・ゲドは騒がしい場所だったが、そこのジョラーガに戻ることもできないのも確かだった。彼女がタジュールとの約定を果たすまでは。それはジョラーガの最高指導者全員がしてきたことだった。一定期間、ほかの部族と共に異国の地で暮らすということ。しかしニッサの場合さらに長期に渡っていた。彼女は過去に久遠の闇を旅してきたのだ。見渡す限りの草原の平坦な地へ、金属と火の地へ、お互いを支配しようとする人々が住む終わり無き都市の地へ。だが、それらの次元のひとつとして彼女には合わなかった。そのどこよりも、ゼンディカーより美しく、マナに溢れた次元はなかった。だから彼女はすぐ後ろ髪を引かれる思いを持ったのだ。
コメント
P1と2は表紙です
P3~24までを機械翻訳予定、小説一本完訳すると1日2ページとしても半年は堅いらしいよ
日本語にはほど遠いですがそれなりに読める英語日本語程度でスピード重視で行きます。誤訳不明瞭山盛りでしょうがそこらへんは後から手直しということで
自分はOCRに頼ろうとして面倒で投げ出した口ですorz
続きも楽しみにしてますね!
デジタル化できるチャプター1はまだしも、やはりスピード的に半年とかかけてるのは厳しいんじゃ・・・と思います
ところでソリン様のCVは若本さんでいいですか。もすぬごい持って回った言い回しで吹きそうです
"Who are you?" she asked.
He looked out over the clearing. "I am called Sorin."
Sorin turned back and settled his golden eyes on Nissa again.
Hiba moaned.
"And you are a Joraga elf, I should think," he said.
「あんた、誰なの?」彼女は尋ねた。
彼は開拓地に注意を払っていた。「私ィはァ、ソリィィィィィンとぉ、呼ばれて、いるゥ」
ソリンは振り返り、その金色の目でニッサをまたじっと見つめた。ハイバはうめいた。
「そして、貴様ァァァァはぁ、ジョラァァァァァァァガの、エルフゥ、とォ、私はァ、考えるゥ」彼は言った。
若本御大のしゃべりで文章書いていくといろいろと崩壊するから止めましょう
素直に大塚スネークでいこうね
wwwwちょwwww余裕で脳内変換できましたから!
ニッサは意外とかわゆいキャラだったんですね…
もっと女王様系だと思いました。
ヘビ嫌がっているところが、なんていうか萌えです。