彼女は以前これに乗ったことはあったので、見かけのわりにはこれが十分機能することは承知していた。こういった奇妙なからくりはタジュールが抜きん出ている部分だった。
 それがきちんと動くかどうか、ニッサは絶対の信頼を置いているわけでも無かったが、ゴンドラは目的地へ向け移動していた。
 ハイバは前面部にいて、フットペダルでこのスピードを緩めることができる。だがそのことを知らないかのようにニッサには思えた。そのため、ゴンドラはぐんぐん速度をあげて森の中を滑走していった。枝がゴンドラの側面をピシピシと打ち、風は編まれたツタの隙間を通って歌うような音をあげた。間も無く白もつれ毛河が遥か下方に見ることができた。岩の間を激しく水が打ち付けている。痩せたオンドゥのベイロスが後ろ足で立ち上がり、河の隣から彼らをじっと見ているときには彼女も息をするのを忘れた。ジップにいる彼らをさすがのベイロスも捕らえることはできなかった。苔ひび割れに近づいてきたことを、タジュールたちが矢を直し、背から弓を取って準備を始めたことで理解した。ニッサは目を閉じて自分の耳の先を流れる風を感じ取った。彼女は森で息をし、彼女の血管を樹液が流れている感覚を覚えた。そして彼女に会うために登ってきているかのような波動を遥か彼方の地面の大いなる純粋な塊を感じ取った。間を置かず苔ひび割れの定住樹が、その手前のもっとも高い変わり樹よりも上にそびえ立っているのが見えてきた。ハイバはまだ速度を落としていなかったので、ニッサは手を伸ばし、周辺の変わり樹の木々の魔力の力線をまとめあげ、接続した。彼女はその瞬間、森全体に満ちた不可視のマナと繋がった。これらの木々はその特徴的なねじれ方でマナのスパイクのまわりに育っている。マナに接続したことで、ニッサはゴンドラの進みを遅くすることができ、最終的にゆっくりと止まらせた。彼女が目を開けると、エルフ全員が彼女を見ていた。
 「あなたたち、奴らのど真ん中にのこのこ出向いていくとでも思っていたの?」彼女は言った。「あたしはあなたたちが森で最高の戦士ではないのはわかってるわ。でもそうなるようにせいぜい頑張ることね」彼女はその言葉で彼らが怒るのは感じていたが、睨み合うかわりに縁から後ろを見やった。森の地面は遥か下方で、下生えと枝ではっきりとは見えなかった。「行くわよ」彼女は言った。返事は待たなかった――部族評議会の会合ではないし、そのほうが手間がかからない――彼女はゴンドラから跳び、近くの枝にふわりと着地した。彼らも不承不承ながら少し遅れて続いた。全員が枝に降り立ってから、彼女は彼らに向き直った。まだらに落ちかかる影で彼女の黒と白のカモフラージュは完璧に機能していた。「さあ」彼女は囁いた。「あなたたちは皆誇りあるジョラーガよ。ジョラーガのように、我らの敵に不意に襲い掛かり、何であろうとそれを殲滅するのよ」

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