彼女は背を向けて枝から枝へ、彼らの先に立って降りたり、定住樹に近くなるようさらに登ったりしていった。ニッサは時折足を止めた。しかし、奇妙なことに、彼女には何も聞こえなかった。そのときハイバが止まり、彼の長い耳の先端を手でパッと払い、左方向を指差した。すぐに彼女にもその枝の折れる音とこすれる音が聞こえた。彼らは忍び寄り、その木に近づくにつれその音も大きくなった。
 彼女のジョラーガは立ち止まり、小さな乾燥した硬鎧蟲の殻を取り出した。タジュールが見守るなか、彼女のジョラーガは矢の先端を殻の中に入れ、再び矢筒に戻した。その後彼らは蟲の殻を持ち、タジュールもぎこちなくその矢の先端を殻の中身に浸した。
 「血茨の濃縮液よ」ニッサはひそひそ声で言った。「首があるなら、そこに打ち込むのよ」彼女はハイバに合図した。彼らは手と膝を落ろし、枝の端に忍び寄って慎重に葉をかきわけた。
 ハイバが最初に良い眺めを得ていた。ニッサは彼が鋭く息を吸い込むのを聞いた。すぐに彼女にもその理由がわかった。そこにいたクリーチャーは、少なく見積もっても100匹を下らなかった。しかし、彼女が衝撃を受けたのはその数ではなかった。それは太陽だった。太陽が、森の地面にあるのだ。周りにある変わり樹により、森の地面にはほとんど日光は届かない。しかしそのクリーチャーはニッサが考え付かない方法でそれをやりとげていた。そいつらは小さな変わり樹を押し倒していた。倒れた木から葉を取り去り、大きな穴を掘って葉をその中に詰め込んだのだ。そのクリーチャーは、彼らが戦ったことのあるどんな生き物とも異質だった。そいつらの中には空を飛んだり、宙に浮いて細く汚らしい触手腕を広げているものもいた。触手があって地面をはいずったり丸まって動いたりするものもいた。固い骨でできたような、顔と言うものが欠如している白い頭を持つものもいた。いくつかは巨体だった……踏み潰すものと同じぐらいの大きさで太かった。ほかのものはエルフ3人分ほどの高さがあった。彼女が目を疑ったのは低く唸りをあげて立っている、残りのものより遥かに高い、塔のようなものだった。「あいつが木を倒して殺したのね」ニッサは呟いた。「あれから先にやるわよ」
 触手を持たないクリーチャーもいた。死体のように肌は白く、革ヒモのようなもので肩と肘が縛られていた。その青白いものたちが数匹、木から葉を取り去っていた。他のものは地面に散在するタジュールの死体に群がり、首の切り傷から血を啜っていた。

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