「下位吸血鬼め」ハイバが囁いた。
 ニッサは観察を続けた。吸血鬼の1人が不意をつかれ触手を持つクリーチャーに首をかじられていた。残酷ではなかったが正確だった。エルフが枝からイチジクをもぐのとそう変わらない。その後そのクリーチャーは吸血鬼の胸に空いた穴を探り当て、右腋の下の管を差し込んだ。その吸血鬼が白く、白くなっていくのをそのクリーチャーはしゃがんでそれを見下ろしていた。
 「何をしているんでしょうね?」ハイバは囁いた。
 「攻撃準備」ニッサは言った。彼女は不気味な現場から目を離した。「いいわね?」
 その単語を彼女が言い終わらないうちに、彼らの背後で枝が折れた。触手を持つクリーチャーが上に居た。定住樹で彼女たちが遭遇した木を登る種類の奴らだった。およそ30匹。枝から枝へ跳びまわっている。
 彼女は右から左へと杖を振り、彼女のいる枝から魔力を引き出し、立ち上がりながら帯状のエネルギーを放った。そのマナが木に当たると動き出し、互いに引き合い、枝の壁を形成し、怪物を捕らえようとツルを伸ばした。エルフらは枝の間を縫ってクリーチャーどもを射はじめた。ニッサが見ている間に早くも2匹が落ちていった。他のクリーチャーたちは壁に向かって自ら突進し、エルフたちに射殺されながらも激しく壁を壊していた。地上からも、彼らのいる木目指して多数のクリーチャーが走り寄って来ていた。
彼女の胴回りの2倍はあろうかという触手を持つ巨大な奴は、のっそりと動いていた。 まずいわね。 とニッサは思った。
 彼女は悲鳴に近い声で警告を発した。エルフの数人は振り返ったが、その前に葉群を突っ切って飛行型のクリーチャーがぶつかった。その1匹はニッサの隣に立っているタジュールを強打し、彼女はそのエルフが即死したのがわかった。もう1匹が彼女へと向かって来た。彼女は好きな花、デンドライトの秘密の名を囁いた。その呪文で彼女の杖に風が生まれ、クリーチャーはそれに打たれて枝の後ろ側へ吹き飛ばされた。他のエルフらは振り向いて飛行型クリーチャーを彼らのもとに登ってくる前に撃ち落としていった。木登り型のクリーチャーは別方向から枝とツタの壁にとりついていた。ニッサが素早く見やると、壁はかなりぼろぼろになっていた。

 そのとき、彼女は足元の変わり樹がガクンと右へ傾ぐのを感じた。足を踏ん張ったが、木はもう一度動いた。彼女は葉の隙間から巨体のクリーチャーが変わり樹の幹を押しているのを見た。
 飛行型クリーチャーが彼女にぶつかってきて、一緒に葉に当たりながら落ちてしまった。彼女は静かに呪文をつぶやき、枕のように前方へマナを押し出した。次の瞬間彼女の落下速度は遅くなり、結果的に彼女と一緒に落ちているクリーチャーの次に着地した。そいつは死体になっていた。さらにクリーチャーが彼女へ向かって来ていた。青い眼を持つクリーチャーが2匹と、森トロール2匹ぶんほどの巨体のものが1匹。肩を当てて木を押している巨体のものは、足がかりを探して柔らかい地面を削っていた。彼女は集中し、マナの沸騰を感じた。彼女の手が緑色に光り始めた。彼女は杖をねじり、彼女の茎の剣を引き出した――長く細い緑の茎がその木の内部に隠されていたのだ――1匹のクリーチャーが頭を下げて突撃してきた。彼女は脇に踏み出し、右足を中心に素早く回転した。通り過ぎるその獣の胴体に、こともなげに硬い茎を突き刺した。それが心臓というものを持っているとすればまさにその位置だった。彼女は木の柄を押し続け、ぐいと引き抜いた。次に囁かれた単語で、血にまみれた茎はしなやかに伸びた。彼女が腕を振ると、茎はしなって木を押しているビヒモスの腕を切り落とした。そいつは切り口から青白い血を流しながら彼女へ向き直った。 叫び声も、怒りも無いわね。 彼女は思った。 たいしたことが無いと思っているわけでもなさそうで、そのクリーチャーは単に別の肩を木の幹に当てて押し続けただけだった。
 彼女がそのビヒモスの別の腕も切り落とそうとしたとき、新手が彼女の横手から突進してきた。彼女が落ちてきたときのように、蹴って反転し、エメラルド色のマナを放ってその触手の半数を弾き飛ばした。彼女が着地したときに、木が右へと傾ぎはじめた。その平坦な根の球が地面から持ち上げられていた。ニッサは激しくその巨大なクリーチャーを打った。彼女はそいつの背中によじのぼり、肩に登った。そしてその首があるべき場所に彼女の茎の剣を巻きつけた。からみつけて引っ張ると、何百という青い眼が瞬きし、彼女を見た。だがそのクリーチャーは押すことを止めなかった。彼女は単純な動物というのは見たことはあるものの、こんなものは初めてだった。彼女は数分間引き続けた。何か魔法でもかかっているのか、あるいは金属でできているのかと背筋が冷たくなるほど、切り裂くことができなかった。

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