「ニッサよ」彼女は言った。右手を心臓に当てて、軽く会釈をした。それがエルフの礼儀だった。
 何かが開けた場所の中央で動いた。一本の腕が音を立てた。ソリンは彼女の目の先を追った。「下位吸血鬼が生きていると、見受けられる」その男は言った。
 「吸血鬼ですって」ニッサは言った。そうするつもりはなかったが彼女の唇は曲がっていた。
 見知らぬ男はしばらく彼女を見た後、青白い唇にゆっくりと笑みを広げた。「左様」その男は言った。「然りだ」
 ソリンは引き返して開けた場所の真中まで歩き、しゃがみこんで吸血鬼におおいかぶさり、水から手を引き抜いているかのような容易さで手首を掴んで吊り下げた。彼はそのクリーチャーを引きずってニッサのいるところまで戻り、その者をハイバの隣に投げ捨てた。ニッサは不意を打たれ後ろに下がった。
 ソリンはくつくつと笑った。「貴様の故郷たるバーラ・ゲドはグール・ドラズの近くではないか」
 「ええ、そうよ」彼女は言った。「ついでに言うと、境界線を守るためにお互い争い続けているわ」
 彼女の足元にいるクリーチャーは彼女が戦ったことのある他の吸血鬼とは違っていた。彼の髪の毛は目になく、一つにまとめてきつく編んで縛っていた。その肌は同じように青白く薄い青だったが、その者は赤い線を胸から顎にかけて塗っていて、それは額から頭頂、剃りあげた首筋まで続いていた。同じような名残の角が肩とひじから伸びていた。
 「彼のバンファはどこに?」彼女は尋ねた。
 ソリンの顔は無表情なまま「ああ」と言った。「貴様が言っているのはこの者の武器のことか。落とし子の血統に取られた、と私は推測する」
 バンファ。 ニッサは、鋭く尖らせた骨でできた長柄両手武器を思い出し、身を震わせた。お世辞にも見目麗しいあの武器は、恐ろしい切れ味を持っている。彼女の体にはそれを証明する傷跡があった。 待って。 彼女は考えた。
 「あいつらをなんて呼んだの?」クリーチャーの触手をつま先で指してニッサは尋ねた。
 「こやつらは落とし子の血統だ」
 「落とし子の、血統」唇を湿らせながら彼女は言った。「何の血を引いてるってのよ」彼女の言葉は空に切えていった。
 「こいつらはこれまでの年月、眠っていたのだよ」突然、下位吸血鬼が言った。「アクームの石の寝床でね」
 開けた場所の向こうから大音量の唸り声が響いてきた。ソリンはその音に気づいていないように見えた。彼はその吸血鬼を見下ろしていた。その者は大きな、瞬きをしない目でソリンを見上げていた。

コメント

すり
2010年3月4日19:19

教えてくれてありがとうございます。
報償プログラムの登録はどこからすればいいのでしょうか?

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索