あの目ときたら。 ニッサは思った。 あの黒い虹色の目が。
 「貴様は、血統のことを、どうやって、知ったのだ?」ソリンは怒鳴った。
 ソリンの声には確かに目に見える鋭さがあった。その下位吸血鬼はその一言ごとに震え上がり、もがくように慎重に立ち上がった。その者のベルトからはたくさんの金属円筒がぶら下がっていた。編みこまれた髪の毛は前腕くらいの太さがあり、地面に届きそうだった。その者はソリンと同じくらいの背丈だったが、細身でしなやかだった。言葉を継ぐ前に、その者は金属円筒を手探りした。
 「私はあれらを解放するために居るのですよ」その吸血鬼は言った。「アクームの歯でね」
 「そうであろうな」ソリンは言った。「ウギンの目でか」
 「同じ場所です」
 別の唸り声がした。先ほどよりも大きく、木々を切り裂いて聞こえてきた。ニッサはしゃがみこみ、ハイバの下に腕を差し入れた。「あたしたちは行くわよ」彼女は言った。「もしベイロスのつがいだったら、こんな開けた場所じゃ……」
 しかしソリンには聞こえていないように見えた。その男の目はその吸血鬼を見ていた。「貴様、何者だ?」彼は尋ねた。
 「アノワン」その者は言った。「かつてはゲト・ファミリーでした。あの目に心囚われた者です」
 「さて」ソリンは言った。「貴様は私が今いる所がどこだかわかるか、アノワン、かつてはゲト・ファミリーであった者よ」
 その吸血鬼の目はハイバを抱き上げたニッサに向いた。「変わり樹森のどこかです」その者は言った。ソリンが何も言わないでいると、アノワンは続けた。「オンドゥ大陸です」まだソリンは何も言わなかった。「ゼンディカーですか?」アノワンは思い切って言った。
 「それと、私は貴様がウギンの目への道を知っているとは思えないのだが?」ソリンは尋ねた。
 「アクームにあります」アノワンは言った。「私が言ったとおりです」
 ソリンはくつくつと笑った。「そんなことを聞いたのではない。貴様が愉快な言葉のやりとりがしたいのであれば、私は貴様の心臓を胸から引きずり出して、そこなエルフに食わせてやろうぞ」
 ニッサは落ち着かなげに足踏みをしていた。
 「あたしは、アクームへの道のりを知ってるわ」開けた場所に横たわる落とし子をちらっと見ながらニッサは言った。「少なくとも、そこへ続く道へあんたを連れて行くことはできる」 なんとしてでも、あたしの森から出て行かせるわ。
 「上出来だ」ソリンは言った。「ようやくの、少しだけ良い知らせである。貴様はこの地に詳しい。貴様は私達のガイドとなる。そうか。貴様は私達に道を示すか」その男はニッサへと向き直った。「それは」ハイバを指差した。「死んでおる。置いていけ。貴様はアクームまでこの湿気った場所を抜けていく案内をしろ。貴様の見立てで私が覚えている道を見出すのだ。そこで忘れられし呪文を唱え、そこは永遠に失われるだろう。忘却の光でな」
 「どうしてあんたに協力しなきゃいけないのよ?」ニッサは言った。「あたしが変わり樹に戻ったら、あんたたち2人はあそこで吼えてるベイロスが細切れにしちゃうわよ」
 「なぜならば、だ。蛮族」ソリンは言った。「ここで貴様が見たものは真なる軍隊の先兵でしかないからだ。私達が話している間にも、本隊は他の場所にもここ以外の次元にも近づいている。貴様が自分の民を救いたいと願うなら、この病を含めて私を手伝うことだ。しかして落とし子どもを居るべき獄に戻す。容易いことではないが、幸運は転がりこんでくるものだ」
 ニッサはハイバを見下ろした。 死んでしまった。 塊が喉まで出かかった。彼女はそれを飲み下すと口を開いた。
 が、ソリンの話が先だった。「私だけがエルドラージをあやつらがもと居た墓場へ戻すことができる。私だけが永遠の眠りにつき直させてやることができるのだ」
 ニッサは話す前にその言葉について考えているようだった。「私の条件としてなんだけど。あんたたち二人がこの森に私の友達を葬るのを手伝ってくれたら」彼女は言った。「あと、縛られていない吸血鬼と一緒に旅はできないわ。あいつは縛り上げて猿轡をはめないと。でなければ、あんたはあたし抜きでぐらつき岩のなかをまっすぐ歩くことになるわ」
 アノワンの口は冷笑に歪んだ。「ジョラーガの月ナメクジが」彼は言った。「お前やお前の同族などのような泥と苔の味がするものに誰が喜んで口をつけるものか。キノコ食いめ」
 ニッサは微笑んだ。彼女にもよくわからなかった。彼女は長いことその侮辱の仕方を聞いてなかった。それは彼女に故郷を思い起こさせた。成人の儀式のなかに、キリサキタケを食べるということが含まれている。そのためにたいてい何人かの若き戦士は命を落としている。大部分は数分間死んだように倒れ、そのあと息を切らせながら瞬きをして起き上がるものだ。生き残れば、生きていける。死ぬのなら、ジョラーガの戦士としての資格が無いということだ。死体は大空洞樹のなかへ投げ込まれる。
 「縛らないなら」ニッサは言った。「この話は無しよ」
 それに答えるかのように、ベイロスの咆哮が木々の向こうから響き渡った。ニッサは歩き出した。

 *4月発売の本編へ続く*



霊界と現実世界のはざまの空間に、現れ出でるのを待ち焦がれる強大な邪悪が潜んでいる。

ゼンディカーは危険と冒険の地である。致命的な危険と莫大な財宝の世界である。多元宇宙の致命的脅威のひとつが閉じ込められた牢獄でもある。それはエルドラージと呼ばれている。
誇り高きエルフの戦士ニッサ・レヴェインと古代の吸血鬼ソリン・マルコフ、この2人のプレインズウォーカーとともに、霊界から生まれ出る災厄を止める手立てを見つけ出すのだ。

Zendikar: In the Teeth of Akoumは2010年4月6日発売。


コメント

JFK_
2010年3月5日18:10

やっとこさ終わりました。拙い部分もあり読みにくかったとは思いますが現状の限界です。きちんと文章を読み込まないと何を言わんとしているのかさっぱり理解できない部分があるのが困ったとこですね。

サンプルに書いてある文字はほとんど漏らさず変換していますから、「翻訳」ならもっときれいにまとまるであろう表現もそのままです。原文の雰囲気を感じ取ってもらうための意図的なものですのでそこらへんはご勘弁願いたいと思います。

さて先日タイミングを計ったかのように公開されたコジレックのなかまとおぼしきタコは哺乳類だモーンたちと死闘を繰り広げなければならなくなったニッサとソリンのでこぼこコンビの大冒険がはじまろうとしています

どうして目覚めてしまったのか、という点においては、Path of the Planeswalkerのおまけコミックにあるようにやんちゃな二人がおイタをしたからではないかと考えています。しかしながらアノワンの現在地がコミックと食い違ってしまうという矛盾も起こってしまっており、小説担当と世界観設定チームと足並みが揃わなかったようですね

ゼンディカーの物語をきちんとお届けできるかどうかはまだ未定ですが、4月末にはもうエルドラージ覚醒が待っています。再封印してめでたしめでたしか、それとも全滅エンドか・・・4月発売の小説が楽しみです

nophoto
灰粉
2010年3月5日20:23

お疲れ様でした!とても楽しく拝見させていただきました。

>やんちゃな二人~
猿缶withボーラスさんが原因のひとつのような気がしていたんですが
どうなんでしょ?
一応path~は入手したのですが、
英語がイマイチ読み取れないので想像に想像を重ねてみました^^;

JFK_
2010年3月6日1:22

さすがに目の前で大立ち回りしてたら寝た子も目を覚ますってもんですよ

ジェイス「また火消しかよ」

すり
2010年3月6日2:47

リンクさせていただきました!

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