あの目ときたら。 ニッサは思った。 あの黒い虹色の目が。
 「貴様は、血統のことを、どうやって、知ったのだ?」ソリンは怒鳴った。
 ソリンの声には確かに目に見える鋭さがあった。その下位吸血鬼はその一言ごとに震え上がり、もがくように慎重に立ち上がった。その者のベルトからはたくさんの金属円筒がぶら下がっていた。編みこまれた髪の毛は前腕くらいの太さがあり、地面に届きそうだった。その者はソリンと同じくらいの背丈だったが、細身でしなやかだった。言葉を継ぐ前に、その者は金属円筒を手探りした。
 「私はあれらを解放するために居るのですよ」その吸血鬼は言った。「アクームの歯でね」
 「そうであろうな」ソリンは言った。「ウギンの目でか」
 「同じ場所です」
 別の唸り声がした。先ほどよりも大きく、木々を切り裂いて聞こえてきた。ニッサはしゃがみこみ、ハイバの下に腕を差し入れた。「あたしたちは行くわよ」彼女は言った。「もしベイロスのつがいだったら、こんな開けた場所じゃ……」
 しかしソリンには聞こえていないように見えた。その男の目はその吸血鬼を見ていた。「貴様、何者だ?」彼は尋ねた。
 「アノワン」その者は言った。「かつてはゲト・ファミリーでした。あの目に心囚われた者です」
 「さて」ソリンは言った。「貴様は私が今いる所がどこだかわかるか、アノワン、かつてはゲト・ファミリーであった者よ」
 その吸血鬼の目はハイバを抱き上げたニッサに向いた。「変わり樹森のどこかです」その者は言った。ソリンが何も言わないでいると、アノワンは続けた。「オンドゥ大陸です」まだソリンは何も言わなかった。「ゼンディカーですか?」アノワンは思い切って言った。
 「それと、私は貴様がウギンの目への道を知っているとは思えないのだが?」ソリンは尋ねた。
 「アクームにあります」アノワンは言った。「私が言ったとおりです」
 ソリンはくつくつと笑った。「そんなことを聞いたのではない。貴様が愉快な言葉のやりとりがしたいのであれば、私は貴様の心臓を胸から引きずり出して、そこなエルフに食わせてやろうぞ」
 ニッサは落ち着かなげに足踏みをしていた。
 「あたしは、アクームへの道のりを知ってるわ」開けた場所に横たわる落とし子をちらっと見ながらニッサは言った。「少なくとも、そこへ続く道へあんたを連れて行くことはできる」 なんとしてでも、あたしの森から出て行かせるわ。
 「上出来だ」ソリンは言った。「ようやくの、少しだけ良い知らせである。貴様はこの地に詳しい。貴様は私達のガイドとなる。そうか。貴様は私達に道を示すか」その男はニッサへと向き直った。「それは」ハイバを指差した。「死んでおる。置いていけ。貴様はアクームまでこの湿気った場所を抜けていく案内をしろ。貴様の見立てで私が覚えている道を見出すのだ。そこで忘れられし呪文を唱え、そこは永遠に失われるだろう。忘却の光でな」
 「どうしてあんたに協力しなきゃいけないのよ?」ニッサは言った。「あたしが変わり樹に戻ったら、あんたたち2人はあそこで吼えてるベイロスが細切れにしちゃうわよ」
 「なぜならば、だ。蛮族」ソリンは言った。「ここで貴様が見たものは真なる軍隊の先兵でしかないからだ。私達が話している間にも、本隊は他の場所にもここ以外の次元にも近づいている。貴様が自分の民を救いたいと願うなら、この病を含めて私を手伝うことだ。しかして落とし子どもを居るべき獄に戻す。容易いことではないが、幸運は転がりこんでくるものだ」
 ニッサはハイバを見下ろした。 死んでしまった。 塊が喉まで出かかった。彼女はそれを飲み下すと口を開いた。
 が、ソリンの話が先だった。「私だけがエルドラージをあやつらがもと居た墓場へ戻すことができる。私だけが永遠の眠りにつき直させてやることができるのだ」
 ニッサは話す前にその言葉について考えているようだった。「私の条件としてなんだけど。あんたたち二人がこの森に私の友達を葬るのを手伝ってくれたら」彼女は言った。「あと、縛られていない吸血鬼と一緒に旅はできないわ。あいつは縛り上げて猿轡をはめないと。でなければ、あんたはあたし抜きでぐらつき岩のなかをまっすぐ歩くことになるわ」
 アノワンの口は冷笑に歪んだ。「ジョラーガの月ナメクジが」彼は言った。「お前やお前の同族などのような泥と苔の味がするものに誰が喜んで口をつけるものか。キノコ食いめ」
 ニッサは微笑んだ。彼女にもよくわからなかった。彼女は長いことその侮辱の仕方を聞いてなかった。それは彼女に故郷を思い起こさせた。成人の儀式のなかに、キリサキタケを食べるということが含まれている。そのためにたいてい何人かの若き戦士は命を落としている。大部分は数分間死んだように倒れ、そのあと息を切らせながら瞬きをして起き上がるものだ。生き残れば、生きていける。死ぬのなら、ジョラーガの戦士としての資格が無いということだ。死体は大空洞樹のなかへ投げ込まれる。
 「縛らないなら」ニッサは言った。「この話は無しよ」
 それに答えるかのように、ベイロスの咆哮が木々の向こうから響き渡った。ニッサは歩き出した。

 *4月発売の本編へ続く*



霊界と現実世界のはざまの空間に、現れ出でるのを待ち焦がれる強大な邪悪が潜んでいる。

ゼンディカーは危険と冒険の地である。致命的な危険と莫大な財宝の世界である。多元宇宙の致命的脅威のひとつが閉じ込められた牢獄でもある。それはエルドラージと呼ばれている。
誇り高きエルフの戦士ニッサ・レヴェインと古代の吸血鬼ソリン・マルコフ、この2人のプレインズウォーカーとともに、霊界から生まれ出る災厄を止める手立てを見つけ出すのだ。

Zendikar: In the Teeth of Akoumは2010年4月6日発売。


 「ニッサよ」彼女は言った。右手を心臓に当てて、軽く会釈をした。それがエルフの礼儀だった。
 何かが開けた場所の中央で動いた。一本の腕が音を立てた。ソリンは彼女の目の先を追った。「下位吸血鬼が生きていると、見受けられる」その男は言った。
 「吸血鬼ですって」ニッサは言った。そうするつもりはなかったが彼女の唇は曲がっていた。
 見知らぬ男はしばらく彼女を見た後、青白い唇にゆっくりと笑みを広げた。「左様」その男は言った。「然りだ」
 ソリンは引き返して開けた場所の真中まで歩き、しゃがみこんで吸血鬼におおいかぶさり、水から手を引き抜いているかのような容易さで手首を掴んで吊り下げた。彼はそのクリーチャーを引きずってニッサのいるところまで戻り、その者をハイバの隣に投げ捨てた。ニッサは不意を打たれ後ろに下がった。
 ソリンはくつくつと笑った。「貴様の故郷たるバーラ・ゲドはグール・ドラズの近くではないか」
 「ええ、そうよ」彼女は言った。「ついでに言うと、境界線を守るためにお互い争い続けているわ」
 彼女の足元にいるクリーチャーは彼女が戦ったことのある他の吸血鬼とは違っていた。彼の髪の毛は目になく、一つにまとめてきつく編んで縛っていた。その肌は同じように青白く薄い青だったが、その者は赤い線を胸から顎にかけて塗っていて、それは額から頭頂、剃りあげた首筋まで続いていた。同じような名残の角が肩とひじから伸びていた。
 「彼のバンファはどこに?」彼女は尋ねた。
 ソリンの顔は無表情なまま「ああ」と言った。「貴様が言っているのはこの者の武器のことか。落とし子の血統に取られた、と私は推測する」
 バンファ。 ニッサは、鋭く尖らせた骨でできた長柄両手武器を思い出し、身を震わせた。お世辞にも見目麗しいあの武器は、恐ろしい切れ味を持っている。彼女の体にはそれを証明する傷跡があった。 待って。 彼女は考えた。
 「あいつらをなんて呼んだの?」クリーチャーの触手をつま先で指してニッサは尋ねた。
 「こやつらは落とし子の血統だ」
 「落とし子の、血統」唇を湿らせながら彼女は言った。「何の血を引いてるってのよ」彼女の言葉は空に切えていった。
 「こいつらはこれまでの年月、眠っていたのだよ」突然、下位吸血鬼が言った。「アクームの石の寝床でね」
 開けた場所の向こうから大音量の唸り声が響いてきた。ソリンはその音に気づいていないように見えた。彼はその吸血鬼を見下ろしていた。その者は大きな、瞬きをしない目でソリンを見上げていた。
 彼女が作ったツタの壁はまだひとかけらが残っていた。彼女が数えていた19匹目までのクリーチャーをそれが捕らえて、矢を射て倒したものだった。しかしその壁の後ろを見たとき、彼女の心臓は喉まで出かかった。彼女の部隊の数人の死体が、まだらに落ちかかる光のなかにばらばらに引き割かれていた。ニッサの指ほどのナール蝿がてらてら光る赤い肉の上をブンブンと飛び回っていた。何ともつかない欠片が彼女の周辺の枝に引っかかっていた。ハエのブンブン言う音が彼女の耳に急にうるさく聞こえた。彼女がきびすを返し去っていくのを、枝の別れ目に載っている引きちぎられたエルフの頭部が、動かぬ瞳で見送っていた。
 彼女は探していた人を森の地面で見つけた。彼の右腕はぺしゃんこになっていて、両足も同じく平らになっていた。それでも、彼はまだ息があった。左手にはまだ弓が握られていて、彼女がどうやってもその指をこじあけることができなかった。
 「ハイバ」彼女はその耳にささやきかけた。「あたしは貴方が死んだと思っていたの。ゆっくりと息をするのよ」彼女は首根っこの下とお尻の下に手を差し入れ、彼を持ち上げた。開けた場所へ悲鳴が上がった。
 その見知らぬ男は死んだクリーチャーのまわりを首を振りつつ歩き回っていた。ニッサがハイバを抱いて開けた場所に出てくると、彼はそちらを向き、彼女が地面に下ろすのを見つめていた。その振る舞いは彼女を不安にさせたが、できるかぎり彼を楽にさせようと懸命になった。あの見知らぬ男が唱えた呪文を見たことを忘れようと努め、彼女は手をお椀型にして口に当て、その男のほうを向いた。
 「あなた、水を持ってない?」彼女は叫んだ。何かを飲む素振りをして「水は?」
 その男は彼女と傷ついたエルフの隣まで歩いてきた。近くで見ると、彼女が思っていたより背は高かった。金のまだらの瞳は、その男の青白い顔に不思議な熱を与えていた。その男は興味無さげにハイバを一瞥した。その瞳は彼女に向けられた。
 「これはじきに死ぬ」その男はハイバを見ることもなく言った。その声は喉の奥底から響いてきた。「すでに死んでいる」
 彼女はその見知らぬ男が言ったのがハイバのことか自分自身のことかどちらなのかに絶対の自信を持てなかった。
 「あんた、誰なの?」彼女は尋ねた。
 彼は開けた場所に注意を払っていた。「私は、ソリンと呼ばれている」
 ソリンは振り返り、その金色の目でニッサをまたじっと見つめた。ハイバはうめいた。
 「そして貴様は、ジョラーガのエルフであると、私は考える」その男は言った。
http://forums.mtgsalvation.com/showthread.php?t=224930

マンガ絵になると1000%増しでかわいいな(アメリカ、砂漠)

(プレインズウォーカーのコラージュ画像を持ってきて)残念賞ぽい写真屋の努力があるけどコレどうよ?チャンドラスリーブでプロキシに使ってみるか

↑マジで?欲しい欲しい、作ってくれ(アメリカ、南テキサス)

かわいいじゃんwwwプロモも欲しいな(アメリカ、東中央イリノイ)

プロモもマンガ絵にすればよかったのにな

マンガチャンドラとか・・・われらがMTG絵師に対する冒涜だろ 個人的な意見だけどさ(アメリカ、ワシントン)

チャンドラコラは自分がやっつけで写真屋(フォトショ)で作ったやつだよ。でもウィザーズには「From the Vault: Manga」とか作って欲しいよな

こらおかしいな(残念な意味で) 日本は何かと言うとすぐマンガやアニメにしちゃうな(ブラジル、)

チャンドラコラいいかんじじゃん。

ちょっと電マ買って来る(オーストラリア)

(チャンドラコラについて)えー、カードになってないの?コレ欲しいんだけど(アメリカ、カナダの近所)

↑マンガの表紙と日本語版カードの画像を合わせただけで、ウィザーズはマンガスタイルでカードを作ったりはしないよ

↑そうなってほしくないもんだな、今のままの絵がいいよ(アメリカ、ウェーク島)

↑コラの出来が悪いとは言わないけどさ、プロモカードの話しね?(アメリカ)

↑誰もお前にマンガスタイルのチャンドラ使えなんて言ってねえよ(アメリカ)


  #誰かこいつらにマ王のサイト教えてあげな・・・
  #あとこんなコラ1つで喧嘩すんなwwwwwwwwww



このプロモはどの雑誌に入ってんの?俺の日本語は錆付いててさ・・・(今大阪にいるからいくつか買って帰ろうと思ってるけど)(シンガポール)

↑スレタイにあるように「デンゲキまオウ」だよ。それを見つけるには表紙はごちゃごちゃしてるから、画像をうpしとく
しかしこのイミフなプロモーションで日本がどこに行きたいのかわからんな・・・「Purifying Fire」を、母国語でコミックの形にしてもっと多くの人に知って欲しいというのだけは伝わったけど。(オーストラリア、シドニー)
40匹くらいは道連れにできるだろう。彼女は剣を振りかざし、突撃しようとした。
 突然、何かがそのクリーチャーの注意を引いたのか、それらはすべて右を向いた。ニッサも同じくそちらを向いた。
 1人の人影が森の中から出てきた。背丈からして人間だ。黒革に身を包み、銀の肩当てと胸当てがきらめいた。その髪の毛は白く、額からうしろになでつけられていた。拍手をしながら歩いてくると、彼のベルトに繋がれた大剣がガタガタと音を立てた。
 「これはこれは」彼女には聞き慣れないアクセントで見知らぬ男が言った。 別の蛮人か。 彼女は考えた。「貴様のくびきはすべて外したのかね?」奇妙な男は歩きながら尋ねた。「道に迷ってしまったのだがね、ウギンの目を探している」
 そのクリーチャーたちはそこに佇んだまま、ニッサと奇妙な闖入者の間で触手をうごめかせていた。その男はその側面へと移動した。彼女はそのクリーチャーたちのジレンマを感じ取ることができた。つまり奇妙な男によって挟みうちされることが嫌なのだ。 私なら、攻撃してるわね。 ニッサは思った。 攻撃しなさい。
 そいつらは動いた。具体的な合図も無しで、クリーチャーたちは突撃しはじめた。ニッサはその奇妙な男を見やった。その男は両腕を掲げた。次の瞬間、その男へ向かって空気が吸い込まれるのを彼女の耳が感じた。両手の間に凝縮された球体から薄黒いエネルギーの小さな流れがほとばしった。そしてその男は彼女が今までに聞いたなかでもっとも低く深い声で話しはじめた。その言語は聞いたことがなかった。見知らぬ男と突進する大群との間の大気は折れて曲がった。その後そのクリーチャーたちはひとかたまりになって、単なる腐った一山のように地に倒れた。
 恐るべき呪文だった――ニッサが目にしてきたなかでもさらに驚き怖れを感じたことは――残ったクリーチャーの反応だった。6匹ほど、その男の呪文の範囲外だったのだろうか、突進を止めなかったのだ。同族がすぐ足元で横たわっていても、そのクリーチャーは黒ずくめに向かって進み続けた。その男は続けて恐ろしい単語を呟いた。それで残ったクリーチャーも倒れた。
 ニッサは時間を無駄にはしなかった。彼女は振り向いて後ろの森……木へ向かって走り出した。少しだけ後ろを振り返ると、あれは彼女が最も恐れるものだと確信した。彼女は瞬く間に木を登った。
 彼女は目を開いて、ショックで杖を落としそうになった。あたしのレインジャーはどこ? ハイバはどこ? そこには、その代わりに、200匹を超えるさまざまな大きさのクリーチャーが、彼らがつくった木の線に立って、彼女を見つめていた。似ているところといえば、すべて触手を持っていることくらいだった。1匹は長い引き縄の先に縛られた唸りをあげている吸血鬼を連れていた。彼女が森で倒してきた4、5匹より大きなものまでいたが、それらは怒っているようにも見えなかった。単に彼女を見ていた。彼女を見るために首を上に向けるものもいた。いくつかは返り血を浴びていたり、タジュールの短い矢が刺さったままのものも多くいて、彼女は後悔で心が痛んだ。彼女の隊とハイバは死んだのだ。彼女は目を下に落とし、傷だらけの手を見た。白く、震えて、杖を握り締めていた。
 クリーチャーらはゆっくりと進み、もうすこしでうごめく触手に触れるくらいだった。40フィートほどまで来て彼らは止まった。それらは話をすることも、手で合図もしなかった――ただ触手を動かしただけだ。どこかで彼女はそういった行動を見たことがあったような、なにか昆虫に似ている。そう――アリだ!
 彼女の前には200匹の気味悪く整列したクリーチャーが近寄ってきていた。良い目算はなにも無かった。彼女の目は近寄ってくるものたちの上の青い空をぼんやりと見つめた。穏やかな風が彼女の髪を揺らした。遥か遠くには高い台地の上に長い碑が浮いていた。その後ろには、黄昏までには良い雨を約束する暗い嵐雲があった。美しい日だった。
 ニッサは杖をねじった。彼女がことを成し遂げバーラ・ゲドにある故郷に戻る時まで預けられた茎の剣は、音もたてず杖から抜けた。彼女は眼前に緑の柄を構えた。
 ここが人生の終着点だろうか? 彼女は変わり樹の開けた場所で、数に勝る敵を前に死を辞さぬ覚悟で立っていた。そうだ。彼女が旅してきた薄汚れた次元にはゼンディカーにある力も美しさも無い。あるのは不快な存在と不細工な者たちだけだった。彼女はクリーチャーの群れに一瞥をくれると無造作に歩き出した。「お前達のような異形が」彼女は独り言を言った。
 彼女はその瞬間でもプレインズウォークすることもできた。それより賢い選択は無いだろう。 わたしの隊は死んだ――ハイバも皆。 もしここで逃げれば、その後の人生から逃げ続けることになる。一人ぼっちで、彷徨って――バーラ・ゲドのジャングルから出てきた影。彼女は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。彼女はジョラーガだ。だからそのように死ぬのだ。彼女はクリーチャーの並びを観察した。そのマッシュルームのような肌の臭いをかげるくらい近づいていた。
《真実の解体者、コジレック/Kozilek, Butcher of Truth(ROE)》
《真実の解体者、コジレック/Kozilek, Butcher of Truth(ROE)》
6/248
Kozilek, Butcher of Truth [”コジレック, ブチャー アヴ トルース]
真実の解体者、コジレック
Michael Komarck
神話レア
10
伝説のクリーチャー -- エルドラージ(Eldrazi) (12/12)
あなたがKozilek, Butcher of Truthを唱えたとき、カードを4枚引く。
滅殺/Annihilator 4.(このクリーチャーが攻撃するたび、防御プレイヤーはパーマネントを4つ生け贄に捧げる。)
Kozilek, Butcher of Truthがあらゆる場所からいずれかの墓地に置かれたとき、そのオーナーは自分の墓地を自分のライブラリーに加えて切り直す。
--
だが最後にはそのクリーチャーは弱り、目の前の幹にもたれるようにして息絶えた。
 背骨は無いといけないわよね。 ニッサは考えた。彼女は剣を杖の中に収めながら周りを見渡した。その木は新しい角度で落ち着いたようで、北にずれて揺れていた。その枝に彼女の隊が目に入ることを願って幹を目で追っていった。しかし、弓音の戦闘の雄叫びも聞こえてはこなかった。彼女は幹から歩き出した。大きなこすれるような音がどこか梢のむこうから反響してきていた。木の上の空に浮かんだ2つの面晶体が互いにこすれあう慣れ親しんだ音が、彼女の意識を戻した。
 彼女は歩いて開けた場所へ進んだ。若いジャディ樹の枝の白い樹皮の下でしゃがみこんだ。狭い谷が彼女の右側に広がっていた。そのはるか下には白もつれ毛河の轟音が峡谷から反響して幹にも響いていた。
 日光は木々の間から漏れ前方で輝いていた。夢の中にいるようで、彼女はそこへ歩いて行った。
 彼女は森の端で足を止めた。日光に目が慣れてくると、あのクリーチャーらが剥ぎ取って穴に詰め込んでいない植物が点々とある刈り取り区画を見ることが出来た。なにもなくなった地面は不規則に掘り起こされていた。苔ひび割れのタジュールの死体がその穴との間にばたばたと倒れていた。もっとも近い30歩ほどのところにある死体は頭蓋骨が潰されて横たわっていた。数人の吸血鬼が優しくも見える様子で死体に跪いていた。彼らはボロを着ていて、明るい日光の下でもつれた髪の毛は鈍く反射していた。腐ったような臭いは、死んだタジュールのものか吸血鬼のものかはっきりしなかった。いや、もしくは各吸血鬼の後ろでその血糊をしゃぶっている触手を持つクリーチャーのものかもしれなかった。彼女は喉に上がってきた塊を飲み込んだ。
 唐突にさえずるような音が彼女の後ろから聞こえた。ニッサは杖を構えて振り返った。タジュールとハイバが数匹のクリーチャーに追われながら駆けてくるのを期待していた。彼女は目を閉じ、ゼンディカーの森の無尽蔵の力を近くに感じ、血の中に沸き起こらせ彼女の足の下の土やまわりのツタから引き寄せた。彼女は、ケダモノどもに、木を破壊するものに、バーラ・ゲドのジョラーガが不法侵入者を、蛮刀を持った余所者をどう扱うかを見せ付けてやるつもりだった。それはタジュールの甘いやりかたとは違う――あふれる憎悪で歓迎されるジャングルの厳しさだった。
 「下位吸血鬼め」ハイバが囁いた。
 ニッサは観察を続けた。吸血鬼の1人が不意をつかれ触手を持つクリーチャーに首をかじられていた。残酷ではなかったが正確だった。エルフが枝からイチジクをもぐのとそう変わらない。その後そのクリーチャーは吸血鬼の胸に空いた穴を探り当て、右腋の下の管を差し込んだ。その吸血鬼が白く、白くなっていくのをそのクリーチャーはしゃがんでそれを見下ろしていた。
 「何をしているんでしょうね?」ハイバは囁いた。
 「攻撃準備」ニッサは言った。彼女は不気味な現場から目を離した。「いいわね?」
 その単語を彼女が言い終わらないうちに、彼らの背後で枝が折れた。触手を持つクリーチャーが上に居た。定住樹で彼女たちが遭遇した木を登る種類の奴らだった。およそ30匹。枝から枝へ跳びまわっている。
 彼女は右から左へと杖を振り、彼女のいる枝から魔力を引き出し、立ち上がりながら帯状のエネルギーを放った。そのマナが木に当たると動き出し、互いに引き合い、枝の壁を形成し、怪物を捕らえようとツルを伸ばした。エルフらは枝の間を縫ってクリーチャーどもを射はじめた。ニッサが見ている間に早くも2匹が落ちていった。他のクリーチャーたちは壁に向かって自ら突進し、エルフたちに射殺されながらも激しく壁を壊していた。地上からも、彼らのいる木目指して多数のクリーチャーが走り寄って来ていた。
彼女の胴回りの2倍はあろうかという触手を持つ巨大な奴は、のっそりと動いていた。 まずいわね。 とニッサは思った。
 彼女は悲鳴に近い声で警告を発した。エルフの数人は振り返ったが、その前に葉群を突っ切って飛行型のクリーチャーがぶつかった。その1匹はニッサの隣に立っているタジュールを強打し、彼女はそのエルフが即死したのがわかった。もう1匹が彼女へと向かって来た。彼女は好きな花、デンドライトの秘密の名を囁いた。その呪文で彼女の杖に風が生まれ、クリーチャーはそれに打たれて枝の後ろ側へ吹き飛ばされた。他のエルフらは振り向いて飛行型クリーチャーを彼らのもとに登ってくる前に撃ち落としていった。木登り型のクリーチャーは別方向から枝とツタの壁にとりついていた。ニッサが素早く見やると、壁はかなりぼろぼろになっていた。

 そのとき、彼女は足元の変わり樹がガクンと右へ傾ぐのを感じた。足を踏ん張ったが、木はもう一度動いた。彼女は葉の隙間から巨体のクリーチャーが変わり樹の幹を押しているのを見た。
 飛行型クリーチャーが彼女にぶつかってきて、一緒に葉に当たりながら落ちてしまった。彼女は静かに呪文をつぶやき、枕のように前方へマナを押し出した。次の瞬間彼女の落下速度は遅くなり、結果的に彼女と一緒に落ちているクリーチャーの次に着地した。そいつは死体になっていた。さらにクリーチャーが彼女へ向かって来ていた。青い眼を持つクリーチャーが2匹と、森トロール2匹ぶんほどの巨体のものが1匹。肩を当てて木を押している巨体のものは、足がかりを探して柔らかい地面を削っていた。彼女は集中し、マナの沸騰を感じた。彼女の手が緑色に光り始めた。彼女は杖をねじり、彼女の茎の剣を引き出した――長く細い緑の茎がその木の内部に隠されていたのだ――1匹のクリーチャーが頭を下げて突撃してきた。彼女は脇に踏み出し、右足を中心に素早く回転した。通り過ぎるその獣の胴体に、こともなげに硬い茎を突き刺した。それが心臓というものを持っているとすればまさにその位置だった。彼女は木の柄を押し続け、ぐいと引き抜いた。次に囁かれた単語で、血にまみれた茎はしなやかに伸びた。彼女が腕を振ると、茎はしなって木を押しているビヒモスの腕を切り落とした。そいつは切り口から青白い血を流しながら彼女へ向き直った。 叫び声も、怒りも無いわね。 彼女は思った。 たいしたことが無いと思っているわけでもなさそうで、そのクリーチャーは単に別の肩を木の幹に当てて押し続けただけだった。
 彼女がそのビヒモスの別の腕も切り落とそうとしたとき、新手が彼女の横手から突進してきた。彼女が落ちてきたときのように、蹴って反転し、エメラルド色のマナを放ってその触手の半数を弾き飛ばした。彼女が着地したときに、木が右へと傾ぎはじめた。その平坦な根の球が地面から持ち上げられていた。ニッサは激しくその巨大なクリーチャーを打った。彼女はそいつの背中によじのぼり、肩に登った。そしてその首があるべき場所に彼女の茎の剣を巻きつけた。からみつけて引っ張ると、何百という青い眼が瞬きし、彼女を見た。だがそのクリーチャーは押すことを止めなかった。彼女は単純な動物というのは見たことはあるものの、こんなものは初めてだった。彼女は数分間引き続けた。何か魔法でもかかっているのか、あるいは金属でできているのかと背筋が冷たくなるほど、切り裂くことができなかった。

 彼女は背を向けて枝から枝へ、彼らの先に立って降りたり、定住樹に近くなるようさらに登ったりしていった。ニッサは時折足を止めた。しかし、奇妙なことに、彼女には何も聞こえなかった。そのときハイバが止まり、彼の長い耳の先端を手でパッと払い、左方向を指差した。すぐに彼女にもその枝の折れる音とこすれる音が聞こえた。彼らは忍び寄り、その木に近づくにつれその音も大きくなった。
 彼女のジョラーガは立ち止まり、小さな乾燥した硬鎧蟲の殻を取り出した。タジュールが見守るなか、彼女のジョラーガは矢の先端を殻の中に入れ、再び矢筒に戻した。その後彼らは蟲の殻を持ち、タジュールもぎこちなくその矢の先端を殻の中身に浸した。
 「血茨の濃縮液よ」ニッサはひそひそ声で言った。「首があるなら、そこに打ち込むのよ」彼女はハイバに合図した。彼らは手と膝を落ろし、枝の端に忍び寄って慎重に葉をかきわけた。
 ハイバが最初に良い眺めを得ていた。ニッサは彼が鋭く息を吸い込むのを聞いた。すぐに彼女にもその理由がわかった。そこにいたクリーチャーは、少なく見積もっても100匹を下らなかった。しかし、彼女が衝撃を受けたのはその数ではなかった。それは太陽だった。太陽が、森の地面にあるのだ。周りにある変わり樹により、森の地面にはほとんど日光は届かない。しかしそのクリーチャーはニッサが考え付かない方法でそれをやりとげていた。そいつらは小さな変わり樹を押し倒していた。倒れた木から葉を取り去り、大きな穴を掘って葉をその中に詰め込んだのだ。そのクリーチャーは、彼らが戦ったことのあるどんな生き物とも異質だった。そいつらの中には空を飛んだり、宙に浮いて細く汚らしい触手腕を広げているものもいた。触手があって地面をはいずったり丸まって動いたりするものもいた。固い骨でできたような、顔と言うものが欠如している白い頭を持つものもいた。いくつかは巨体だった……踏み潰すものと同じぐらいの大きさで太かった。ほかのものはエルフ3人分ほどの高さがあった。彼女が目を疑ったのは低く唸りをあげて立っている、残りのものより遥かに高い、塔のようなものだった。「あいつが木を倒して殺したのね」ニッサは呟いた。「あれから先にやるわよ」
 触手を持たないクリーチャーもいた。死体のように肌は白く、革ヒモのようなもので肩と肘が縛られていた。その青白いものたちが数匹、木から葉を取り去っていた。他のものは地面に散在するタジュールの死体に群がり、首の切り傷から血を啜っていた。

 彼女は以前これに乗ったことはあったので、見かけのわりにはこれが十分機能することは承知していた。こういった奇妙なからくりはタジュールが抜きん出ている部分だった。
 それがきちんと動くかどうか、ニッサは絶対の信頼を置いているわけでも無かったが、ゴンドラは目的地へ向け移動していた。
 ハイバは前面部にいて、フットペダルでこのスピードを緩めることができる。だがそのことを知らないかのようにニッサには思えた。そのため、ゴンドラはぐんぐん速度をあげて森の中を滑走していった。枝がゴンドラの側面をピシピシと打ち、風は編まれたツタの隙間を通って歌うような音をあげた。間も無く白もつれ毛河が遥か下方に見ることができた。岩の間を激しく水が打ち付けている。痩せたオンドゥのベイロスが後ろ足で立ち上がり、河の隣から彼らをじっと見ているときには彼女も息をするのを忘れた。ジップにいる彼らをさすがのベイロスも捕らえることはできなかった。苔ひび割れに近づいてきたことを、タジュールたちが矢を直し、背から弓を取って準備を始めたことで理解した。ニッサは目を閉じて自分の耳の先を流れる風を感じ取った。彼女は森で息をし、彼女の血管を樹液が流れている感覚を覚えた。そして彼女に会うために登ってきているかのような波動を遥か彼方の地面の大いなる純粋な塊を感じ取った。間を置かず苔ひび割れの定住樹が、その手前のもっとも高い変わり樹よりも上にそびえ立っているのが見えてきた。ハイバはまだ速度を落としていなかったので、ニッサは手を伸ばし、周辺の変わり樹の木々の魔力の力線をまとめあげ、接続した。彼女はその瞬間、森全体に満ちた不可視のマナと繋がった。これらの木々はその特徴的なねじれ方でマナのスパイクのまわりに育っている。マナに接続したことで、ニッサはゴンドラの進みを遅くすることができ、最終的にゆっくりと止まらせた。彼女が目を開けると、エルフ全員が彼女を見ていた。
 「あなたたち、奴らのど真ん中にのこのこ出向いていくとでも思っていたの?」彼女は言った。「あたしはあなたたちが森で最高の戦士ではないのはわかってるわ。でもそうなるようにせいぜい頑張ることね」彼女はその言葉で彼らが怒るのは感じていたが、睨み合うかわりに縁から後ろを見やった。森の地面は遥か下方で、下生えと枝ではっきりとは見えなかった。「行くわよ」彼女は言った。返事は待たなかった――部族評議会の会合ではないし、そのほうが手間がかからない――彼女はゴンドラから跳び、近くの枝にふわりと着地した。彼らも不承不承ながら少し遅れて続いた。全員が枝に降り立ってから、彼女は彼らに向き直った。まだらに落ちかかる影で彼女の黒と白のカモフラージュは完璧に機能していた。「さあ」彼女は囁いた。「あなたたちは皆誇りあるジョラーガよ。ジョラーガのように、我らの敵に不意に襲い掛かり、何であろうとそれを殲滅するのよ」
 まだこのクリーチャーのほうが可愛げがあるわよ。 これらが枝に並んでいるのを見た瞬間、彼女はそんなことを感じた。そんなことを考えていると、ハイバが階段を降りてきて傍に立った。
 「こいつら、何に近いと思う?」彼女は立ち上がって言った。
 「おとぎ話に出てくるようなのに似てますね」彼は言った。
 そのとおりだ。彼女が子供のころ聞かされた古いお話に出てくる怪物に似ている。 潜むもの。
 「”潜むもの”って、触手がついてたかしら?」彼女は尋ねた。
 「我々はそれをそんなふうに呼びません」ハイバは言った。「我々のやつに触手は無かったと思います。角がありましたね」
 彼女はうなずいた。まだ、それらについて何かあったような。
 ハイバは屋敷の戸口にいるタジュールへとあごをしゃくった。「彼らの1人は苔ひび割れからやっとのことで来たばかりだそうです。このクリーチャーどもは我々のところに来る前にそこを襲っていたんです」
 苔ひび割れとは、白もつれ毛河流域の木の生い茂る小さな峡谷の底にある隣の定住地の名前だった。
 「その人は他に何か?」ニッサは尋ねた。
 「ジョラーガに協力はしない、と」ハイバは言い、彼女に向かって渋い顔で苦笑した。
 「彼は、ジョラーガに協力はしない」ニッサは繰り返した。「笑っちゃうわ」行動を決めるまで、2秒ほど考えていた。「了解よ」彼女は言った。「あたしたちはジップ(吊り下がり滑降移動手段)で行く。苔ひび割れへ向かう意志のあるタジュールは乗り口でそれを掴め」彼女は板張りの階段を下りかけて立ち止まった。「そうしない者は、ここで震えながらこの脅威をジョラーガのせいにしているがいい」
 「ジップでですね、葉の語り手?」ハイバは彼女の次に叫んだ。
 「そうだ、ジップでだ」彼女は復唱した。
 ハイバがジップラインの乗り口に着いたときには、20人のエルフが集まっていた。全員完全装備で、彼らの戦闘装飾色で塗られていた。赤い円を目のまわりに塗っている者、青い唇の者がいた。それぞれの様式はそのエルフ固有の族霊(守護獣霊)を現している。「いいじゃない」彼女はひとりごちた。「でも戦えるのかしら?」彼女はジョラーガ流の文様を描いていた。目へ向かって顔の横から黒色の線が何本も引かれている。ジョラーガである、という印だった。それは自分の力しか信じない、という意味でもある。他人の心は闇の森、とジョラーガのことわざは言う。
 彼らは全員、ツタで編まれた天井のないゴンドラに乗り込んだ。ゴンドラは弧を描くツタと変わり樹の袋に収められた2つのジャディ樹製の滑車でジップラインとつながれている。樹皮で編まれたジップラインは緑の森の先へと繋がっていた。
 カゴはニッサが足で押すと跳ね、横に揺れた。
 「こっちです」ハイバが言った。彼は屋敷へ向かって走っていた。彼は屋敷の戸口の外にいる小さな群衆の近くで立ち止まった。その一団はかがみこみ、何かを運んでいた。彼女じゃない、ニッサは走りながら言い聞かせていた。しかし、そうではなかった。彼女が着いたときには、彼らは語り部スティーナの死体を運びだしていた。彼女は変わらぬ笑みを浮かべたままだった。しかしかの指導者の胴着はぼろぼろで、血にまみれていた。屋敷の周りのタジュールの群集は、行列が過ぎてゆくのを見守っていた。過ぎ去ってしまった後、彼らは彼女を顧み、とても友好的とは言えない表情で彼女を見た。ニッサは屋敷の壁にもたれかかっている残り2名のジョラーガをちらりと見た。彼ら、あたしの部族民たちは、あたしのことをどう思うべきなんだろうか?
 ……そんなこと、考えてもしょうがない。か。 彼女は、語り部が殺された場所へ振り向いた。2匹のクリーチャーが近くの階段の上にくしゃくしゃになって横たわっていた。彼女はその1匹を裏返した。
 「何をしてるんです?」ハイバが言った。
 ニッサはそれを無視して膝をついた。そのクリーチャーの触手はもう動いていなかった。慎重に触手から先端まで動かしたりしながら検分した。彼女は不思議なものに気づいた。クリーチャーの右腕の下に、口先のようなチューブが4フィートほど口をあけていた。そのチューブは肉のようで、非常に細く、輪をつくっているためぶらさがることはなかった。
 「こいつら、口が無いわ」彼女は言い、上の方をちらりと見た。タジュールの一団が屋敷の戸口から静かに見守っていた。
 「口が無いから、何です?」ハイバが言った。彼はその一団をちらりと見た。
 「どうやって物を食べるのかしら?」やわらかい触手をつつきながら彼女は言った。ハイバの肩をすくめる音が聞こえたが、見上げることはしなかった。「食べるためでないなら、こいつらはなぜここに?」
 「タジュールが嫌いなんじゃないですかね?」ハイバは言った。その意見は彼女のためでもあったが、それは無視した。
 ハイバは戸口の周りに立っている一団へと歩いていった。ニッサは彼らがぼそぼそと話しているのは聞こえたが、単語までは聞きとれなかった。そのかわり、彼女はクリーチャーをさらに念入りに調べた。
 それはゼンディカーで彼女の見たことのあるどれとも似つかないものだった。触手を持つがエラも無く、指の間に水かきも無い。まぶたのない眼とうねる肌は地下の生物を思わせるが、どうやったら口を持たない何かが地中で生きていけるのだろう?武器も衣服も持たなかった。そしてこのクリーチャーはなにか洗ったような、ツンとする臭いがする。彼女は蛇を思い出した。彼女は嫌そうに唇を突き出した。
突如茎と葉がその印から湧き出した。
 ニッサは過去にも敵に種を植え付けたことがあるが、こんな反応は見たことがなかった。彼女はペトラ巨人がその植物を外そうと引っ張ったのを見たことがある。がっちりと食い込んだ植物を引っ張ると、その根は灰色の心臓をがっちりと抱え込んだまま飛び出してきたものだった。しかし、この触手を持つクリーチャーは植物が育つのを見ているだけで、そのクリーチャーの背よりも高く育つまでちらちら光り、伸びていった。つぼみが現れ、そのクリーチャーの頭のまわりを閉じて口のように折れまがり開いた。
 ニッサのかたわらでヒュウと何かが鳴り、彼女の背後で構えていたクリーチャーがハイバの短剣を胸に突きたてたまま倒れた。森の地面の腐った葉のなかに横たわったまま、触手が剣の柄をまさぐった。最後のクリーチャーは残りのジョラーガが射た矢で倒された。ニッサは杖で地面を叩き、深呼吸をした。魔力の奔流が彼女の足裏から背骨にかけて波打ち、周辺でちらちらと光った。彼女は走り、空へ跳んだ。杖を振って先端をトンとそのクリーチャーの頭に当てた。まだらな光が木のまわりに散り、しばらくの間それはそこに立っていたが、次の瞬間地面に崩れ落ちた。
 ニッサは着地して、後ろのクリーチャーのところへ歩いていった。彼女はその体を近くで観察しようとかがみこんだ。その体を捕らえていた植物はすでに茶色になって枯れていたことに彼女は驚いた。彼女はもっと詳しく調べようとしたが、ハイバが背後の定住樹へと走り出したため、ニッサは最後にその地面に伏したクリーチャーに一瞥をくれた後、ジョラーガの残った2名をつれて後を追った。
 ハイバは巨大な定住樹――100人のエルフが手を繋いで囲むことができるくらい――の根元で留まっていた。だがエルフの代わりに20匹ほどの触手を持つクリーチャーが周りに横たわっていた。いくつかは矢ぶすまにされていて、1匹はツタにからみつかれていた。すべて上から落ちてきていた。ハイバは木に飛びついて登るのに時間を無駄にはしなかった。ニッサとジョラーガも続いた。定住地の広い足場には20匹以上の死んだクリーチャーが散らかされていた。若干数がまだもがいており、青白い手に長ナイフを握り締めたタジュールの一隊が止めを刺して回っていた。ニッサは1人のエルフがナイフをクリーチャーに深く突き刺し、永遠に動かなくさせているのを見ていた。
ニッサはハイバが自分の剣を空中で振る音を聞いた。そいつらは森の地面にぶつかり、別々の方向に回転して割れた。ニッサはは跳ねるように動き、その間も両手で杖を握り締め、よく使う呪文をつぶやいた。いつものように、彼女の杖は魔力の波の線にそって燃えるような熱を持ち、その葉脈のような光は彼女の頭からねじれて放出されていた。彼女の持つバーラ・ゲドのジャングルとのマナの繋がりが確実に、強くなるのを感じ、葉脈は赤く光り始めた。次の瞬間、4人のジョラーガの戦士が散開して彼女の周りに立っていた。森の地面の鈍い明るさのなかちらちらと光り、ジャングルランのような香ばしい臭いがした。彼らの目は鋭く、背中から小弓をさっと取り出し、矢をつがえ、流れるような一挙動で放った。矢は彼らが見下ろす木々にかがんでいる2匹のものに飛んで行った。それらは灰色と黒色で、キチン質の幾何学模様の板で覆われていた。そのクリーチャーの腕は二股に分かれていて、足はてらてらと光る触手だった。頭はなく――肩のところにはこぶだけしかなかった。体のほうにはまぶたの無い青い眼で覆われていて、表情らしいものもなく矢をその細い腕で叩き落した。後方から、彼女はくすくす笑いとさえずるような声を聞いた。彼女が振り向くと、さらに4匹のクリーチャーが枝の上で静かに体を揺らしていた。ジョラーガたちはさらに矢を射つが、そのクリーチャーによってほとんどがはたき落とされてしまう。1本の矢が目標をとらえ、それの上部胴体に刺さった。そのクリーチャーは奇妙なうめき声をあげ、前のめりに倒れ、回転しながら地面に落ちていった。残っていたクリーチャーたちは驚くべきしなやかさで跳び、森の地面までの道を駆けて死んだそれに群がり、その触手を伸ばして触れた。
 死んだそれの上に立っている別のクリーチャーめがけ、ジョラーガたちはさらに矢を射た。残りの4匹はゆっくりと振り返った。その眼に、ニッサは一瞬息を止めた――それらの体を覆う、無表情な青い眼。そこには怒りも悲しみも、悪も善もなかった。彼女がゼーム獣を見るときのようなやりかたで自分を見ていることが癪に障った。獲物として見られてる。
 ジョラーガは3匹目のクリーチャーを撃ち、残った3匹の獣はその腕――細い触手で滑るように突進してきた。一匹がジョラーガを捕らえ、次のものがニッサを捕らえ、喰らおうと引きずった。呪文をつぶやき、ニッサは杖を振り上げて一番近くに居たクリーチャーの体に打ちつけた。そいつは後ずさり、固い肉のうちに緑に光るへこんだ部分をその青い眼が見た。
 「拘束の輪だと」同時に他のエルフらが繰り返した。ニッサはそうやって彼らがアンデッドのようにひそひそ話すのは嫌いだった。
 ニッサ。 語り部スティーナの声が、突然彼女の頭の中で響いた。語り部の目は彼女に向けられていた。彼女は大きな声で話し始めた。「貴方はタジュールの一部隊を連れ、この脅威を探し出し、排除するためにその力を振るいなさい」
 ニッサは頷いた。変わり樹に到着してからは彼女はタジュールの葉の語り手なのだから。タジュールは常に彼女に最も難しい任務を課してきた。定住樹にいる多くの者が彼女の能力、語る知識に感銘を受けた。そして多くの者が彼女を脅威と考えもした――ジョラーガの侵略計画の第一歩ではないかと。だが理由はどうあれ、ニッサは危険な任務をこなすのは好きだった。彼女が離れたところでどうだと言うのだろう?ナメクジ油のランタンに照らされた定住樹の冷えた部屋、そしてタジュールの疑り深い視線。
 ニッサは屋敷をぐるりと見渡した。タジュールの大半がそのホールに列をなしていた。彼女は後方の近場のドアに向かい歩いていった。ハイバが後に続いた。
 彼女が通る先を他のタジュールが道を開けた。そうでなくては。 彼女は考えた。彼らはジョラーガと仲良くなりすぎたりはしない。 ハイバは違っていた。彼は「お行儀良い」ジョラーガの魔法や戦闘をありのままに受け止めていた。彼女が初めて定住樹に来たとき、彼女と同じ夕食のテーブルにつくことを拒否したタジュールも居た。彼女には彼らを責めることもできない。彼らがジョラーガと過ごしてきた日々は決して喜ばしいものではなかったからだ。1日じゅう、夜通し襲撃部隊を率いたり固い地面で寝ることなどについて瞑想でもしてそれが喜ばしいかどうかの考えをまとめない限り、ジョラーガに対して特別良く思うことなど何一つ無いのだ。読書と音楽への不信感を除けば、ニッサにはジョラーガの生活様式は好ましいものだった。彼女の血にはバーラ・ゲドの悪臭を放つジャングルを持ちあわせていたが、まだそこに戻るわけにはいかなかった。だから、彼女を信用しないエルフの国を守るための偵察隊を彼女が率いているのだった。
 ホールから歩いて出て行く間、ニッサは語り部スティーナから聞いたことを思い返していた。かの指導者は遠く離れた二股入り江の崖にある、崩壊した古代の建築物の傾いた宮殿に住んでいる。その宮殿は崖の端へゆっくり伸びているジャーウォレルの古代樹の大枝の中に包まれている。噂によれば、一ヶ月に一度、二股入り江の深みから登ってきては津波を起こす月クラーケンと語り部は協力関係にあるということだ。

 ハイバの手がニッサの肩を掴んだ。彼女は途中で足を止め、振り向いた。サラサラと音を立てる絹と染め上げられた革に身を包んだタジュールが彼女らの周りを静かに歩いていた。彼女の副官の長い耳は空に向けられ、彼の大きな顎は”聞いてください”と動いた。彼の耳はいろいろな意味で彼の一番の資産だ。それがあるだけでひときわ彼を役に立つものとしている。彼は3倍の背の高さほど離れた枝にいるフクロウの羽繕いの音を聞くことが出来る。エルフのなかでもたいしたものだった。彼女たちが共に偵察行をしている間、彼女は彼の表情をよく読めるようになっていた。彼女は彼の唇の曲がり方やまぶたが目のどこに落ちかけたかで、どんなクリーチャーが潜んでいるかを言い当てることができた。けれども、その時、屋敷の外の板張り歩道に立っている彼が見せた表情は、彼女が初めて見るものだった。
 次の瞬間、警告角笛の音が下生えの向こうから響いてきた。板張り歩道にいたタジュールは歩くのを止め、森の地面を見下ろしていた。ニッサは身をかがめて、背中にヒモで回されている杖に手を伸ばした。それを掴む前に、ハイバが彼女の手首を掴み、枝の端から離れるよう引き寄せた。地面が上へ吹き上がった。ハイバはその間にベルトからフックを外して投げていた。フックは古い木の割れ目を掴んだ。その刹那ロープが引っ張られた。ニッサは歯がカチンと噛みあわされるのを感じた。彼女達は次の瞬間長い弧を描いて木から放り出されていた。
 ハイバがロープを放すとニッサは回転しだすのを感じた。彼女たちが向かっている幹がぼんやりと見えた。距離を測り、無理やり反転し彼女の足で枝の苔むしたくぼみを蹴りつけた。彼女はハイバの腕をつかむと、大柄なタジュールがよろめいている狭い枝に引き寄せた。イーカ鳥がどこか遠くで鳴きわめいていた。彼女たちの頭上の梢に浮かぶ一対の面晶体が突然互いにぶつかり合った。それくらいは印象に残らない程度のありふれた光景だった。戦いの音に耳を済ませたが何も聞こえてこなかった。突撃角笛も、魔法が流れてくる風切り音も、鋼がぶつかりあう音も。一瞬、ニッサは遠くで誰かの悲鳴を聞いたような気がした。ハイバに聞いても彼も首を横に振った。
 次の瞬間、ハイバは顔を上げた。また悲鳴が上がった。「なにか来ます」彼は言った。彼はベルトに留めていた短剣を抜き放ち、ニッサは杖を両手で構えた。彼女は低い笛の音を聞き取り、投げ矢か何かが来ると思った方向へ杖を振りかざした。その木々にいたものは、甲高く鳴きながら空を飛び、彼女たち目掛けて飛び出してきた。
 彼女がよく見る前にそれ――腕が多い灰色のもの――は、彼女とハイバに打ち倒され、中空へと落ちていった。
http://www.nhk.or.jp/bs/bsanime/
2月27日、23:30からのアニメ映画劇場にて放送されます。

地上波放送は編集版なので、放送時間内に収めるために本編のシーンがいくつか削られていました。もちろんエンディングロールの「ガーネット」もです。

放送時間枠を見ると23:30~25:09の99分。本編そのものは98分程度なので、エンディングロールは入らないかもしれませんが、本編は間違いなくノーカットでしょう。しかもハイビジョン放送ということで、劇場で見逃した人、円盤買ってない人はいちどは見ておいて損は無い作品。


 スティーナの瞳は一瞬震えた。彼女が話しているとき、唇には緑のリン光が散った。そして口から出る言葉は喉にからみ、耳障りになり、さえずるほど甲高くなっていった。彼女の揺れる瞳は見開かれ、彼女の唇には再び笑みがこぼれた。「こは今まさに森を渡る伝染病を伝える言葉なり。そなたらの誰がそれをわかろうか?」
 ニッサは彼女の顔を見ないようにしようとはしなかった。彼女はその次元にあるどの言語にも属さないことを知っていた……それは火打ち石が互いに打ち合わされるような音だった。 山トロールですらもっと楽しげに話をするでしょうね。
 スティーナの瞳はさらに震え、他の何かと交信するにつれ再び白目を剥いた。「これは何だ?」心配げな男性のタジュールの男性の声が、彼女の喉から響いてきた。「この穴は何なんだ? スタイナ、ラウリ、あれを射て」
 「しかし風が」女性の声が言った。「あの風が」
 30回ほど心臓が脈打つ間、沈黙が続いた。
 ニッサはスティーナの頬の肉と目の周りがひきつり、けいれんしているのを見て取った。彼女の顎は上下左右に引っ張られているようだった。彼女は偵察隊の面々の最期の瞬間を再び体験しているのだとニッサにはわかった。白目を剥いていたスティーナの目は瞬きしてあるべき場所に戻った。彼女は微笑を取り戻した。彼女の周りのタジュールは静まり返っていた。すべてのエルフはその頭を垂れていた。彼らの唇は少し緑色になっていることに彼女は気づき、心配げな顔をした。時折集会でそういうことが起きる。ジョラーガは彼女の部族民たちとは絶対に分かり合えないだろう――はたから見れば恥ずかしい。だが小さな出来事ですらうまくいかないとき、タジュールはこうやって解決しているのだろう。ニッサは待つことにした。屋敷の窓の向こうには木々によって分割された空が見えた。
 「スタイナはわたしの姉の名です」群衆のなかから、あるタジュールが言った。「わたしたちは1週間ほど前から彼女の便りを聞いていません」
 別の者が口を開いた。「あれは葉の語り手グロウリの声じゃないのか」
 「彼は遥か西方を巡回していたな」さらに別のものが言った。囁き声に近い声色だった。
 風、ね。 ニッサは考えた。 森の中で風があるところって何処かしらね。そよ風程度なら、ある。でも風が吹くことはない。 彼女はまだ全体の地形についてもタジュールの国についても欲しているほどの知識は持ち合わせていなかった。だが、風が吹くというのは森の中でも稀なことであるのは承知していた。
 ハイバがしゃがみこんだ。彼の唇は緑色になっていないことにニッサは気がついた。「拘束の輪だ」彼はぼそりと言った。「台地のところだ」
 彼の考えに応えて、部屋にいる誰かが言った。「拘束の輪も西方にあるな」
ファイレクシアVS連合軍 From the Vault: Relics 《古代の聖塔/Ancient Ziggurat(FNM)》
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ファイレクシアVS連合軍のパッケージにエヴァこと《ファイレクシアの抹殺者/Phyrexian Negator(UDS)》、《ウルザの激怒/Urza’s Rage(INV)》が収録されていることは周知のとおりですが(えっ?)、画像が出てきたようです。

また、FtV:Relicsにも気になる懐かしいぶっ壊れの姿が公開されています。

あと3月のフライデーナイト・マジックプロモの画像が出てきました。
「TALES OF MAGIC」記事中、調査が足りず固有名詞の誤りがありましたことをご報告します。

×アッファ→○アーファ
×ズーラ港→○ズーラポート
×面晶体平原→○面晶体原

マラキールの吸血鬼血族の名前についてはWotC公式の記事を参照しています。タカラトミーのほうはあまりアテにしていません。

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